――その救急隊員の人がですか?

「いや、鑑識の人が。もうそのときは救急隊員はみんな引き揚げて、鑑識の人が来てて、そう言われるんで。それでも殺人事件ということが分からなくて、『首を切られてるってどういうことですか』と聞いたら、向こうの方が困った表情をして、『それは自分で切ったかもしれないし、人に切られたかもしれない』って言われて、あ、これは殺人事件なんだと、そこでやっと気がついたんですね」

事件当時のままの郵便受けの表札。なお、鈴木トシ子さんは奈美子さんの母親(筆者撮影)

 なお、大家が奈美子さんの遺体を発見した際、航平さんは台所の椅子に座り、車のおもちゃで遊んでいたという。そこで大家は、彼を上階の奈美子さんのママ友に預けている。

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 殺人事件と断定した愛知県警は、西署に捜査本部を設置した。

 犯行時、犯人は自分の手を切ったようで、血痕は玄関内に留まらず、表の廊下や階段を伝って、現場から約500メートル離れた公園まで点々と続いていた。公園の手洗い場には血を洗った痕跡が残っており、後に公表された犯人の似顔絵は、そこでの目撃証言により作成されている。

逮捕された安福久美子容疑者(高校の卒業アルバムより)

初動捜査のミス

 犯人の血痕や靴跡、目撃証言などの証拠が数多く残っていたことから、解決を楽観視していたのだろうか。初動現場ではミスも起きていた。愛知県警を担当するA記者は明かす。

「血痕が多量にあったので、警察犬を使うなどして犯人の足どり捜査をやっていたんですけど、事件を知ったマスコミが集まり始めたので中断したんです。そうしたら翌々日に雨が降って、痕跡が流れてしまった。だから、公園の手洗い場から数百メートル以降の、犯人の足どりが辿れませんでした」

この続きでは、“初動捜査の偏り”を元捜査幹部が語っています〉

※本記事の全文(約7500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年1月号に掲載されています(小野一光「安福久美子の名が閃いた刑事との問答」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
・悟さんに好意を抱いていた安福
・殺人事件の公訴時効の撤廃
・K警部の執念

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出典元

文藝春秋

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