2008年、インドで13歳の少女が自宅で殺害された。さらに不可解なのは、当初「犯人」と疑われた使用人の男までが、翌日、同じ建物内で殺されていたことだ。裕福な歯科医夫婦、ずさんな初動捜査、錯綜する証言。真相はいまだ闇の中──インド最大級の未解決事件のダイジェストを、文庫『読んで震えろ! 世界の未解決ミステリー』(鉄人社)を紹介する。
不可解な「二重殺人」と疑いをかけられた両親
2008年5月16日朝、インドのウッタル・プラデーシュ州イノダで、歯科医タルワル夫妻の一人娘アルシ(当時13歳)が自室のベッドで血を流して死亡しているのが発見された。通報を受けた警察が到着する頃には、親族やメディア関係者らが多数集まり、現場は保存されないまま混乱した状態に陥った。
事件発生時、住み込みの使用人ヘムラッジ(45歳)の姿が見えないことから、両親は彼がアルシに性的暴行を加えて殺害したと主張した。しかし翌日、ヘムラッジ自身も同じアパートの屋上で遺体となって発見される。検死の結果、2人とも前日の深夜0時から1時頃に鈍器で殴られ、死亡後に喉を刃物で切り裂かれていたことが判明した。
警察は外部からの侵入の形跡がないことから、両親を疑い始めた。彼らの見立てによれば、父ラジェッシュが娘とヘムラッジが親密にしている場面を目撃して激怒し、2人を殺害したというものだった。さらに、ラジェッシュには愛人がいることも発覚し、この事実をヘムラッジに知られたための口封じという動機も浮上した。
事件からわずか1週間後、警察はラジェッシュを殺人、妻ヌーパーを殺人幇助の容疑で逮捕。メディアは「裕福な歯科医夫婦が娘と使用人を殺害」としてセンセーショナルに報道し、夫婦のスワッピング疑惑など根も葉もない噂まで流布されるようになった。
