広島や函館、また長崎といった町を訪れて路面電車が走っているのを見かけると、妙にもの懐かしさを覚え、また旅情を感じてしまう。東京には都電荒川線と東急世田谷線くらいしか路面電車は走っていないし、それとて道路の上を走る“併用軌道”はほとんどないから、実質路面電車はないようなものだ。

 だから、旅先で路面電車に遭遇するとなんだかワクワクしてしまう。地元の人にとっては懐かしくも珍しくもない日常の乗り物で、都会人が勝手に旅情を感じているだけなのは百も承知。それでも路面電車は、何かをかき立てる存在なのだ。

 が、言うまでもなく東京にだってそこら中に路面電車が走っていたことがある。最盛期の1960年には、都電の総距離は実に40系統213.7km。東京都心の主要な道路という道路に、路面電車が行ったり来たりしていたのだ。

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 ……などという話をしていたら、編集氏が言うのだ。「だったら都電の廃線跡を歩いてみたらおもしろいんじゃないですか」。

「東京初の路面電車」の跡には何がある?(1967年撮影) ©︎時事通信社

「東京初の路面電車」の跡には何がある?

 路面電車の廃線跡というのは一般的な鉄道のそれとはまったく違う。何しろ道路の上を走っていたのだから、廃止されてもそのまま道路は残り続ける。アスファルトの下にレールが埋め込まれているということはあるにしても、都電の廃線跡はただの東京の主要道に過ぎない。

今回の路線図。東京で初めての路面電車は品川〜上野間だ。

 そうは言っても、都電が走っていたのはもう50年以上も前のこと。半世紀も経ったのだから、廃線跡を辿ってみたら何かしらの発見があるやもしれぬ。

 だからとにかく歩いてみることにした。まず歩くのは都電40系統のうちのトップナンバー。品川駅前~上野駅前間を結んでいた1系統である。