私は模範囚を目指している
私はメモするためにノートに目線を落としていたが、ふと顔を上げると、小島は不信感たっぷりの険しい表情でこちらを見ていた。私と目が合うと、すぐにニコニコした顔に変わる。明らかに作り笑いだ。こちらを警戒しているのだろう。
私は気づかないふりをして質問を続けた。
──刑務所に入りたいなら、いきなり無期刑を狙わなくても、お試しで数年間とか考えなかったんですか?
「刑務所に入るのは子どもの頃からの夢だったから、私もかなり調べたんですよ。できれば長く入っていたい」
──世の中には、累犯で2年置きに刑務所に入るような人もいると思うけど。
「いますね。でも、1回出所すると優遇区分とか、制限区分とかはリセットされてしまうんです。私は模範囚を目指しているので、昇進するためには無期刑になる必要があるんです。優遇区分においては第一類に、制限区分においては第一種に、労務作業においては第一等工に。私はキリスト教徒が修道院に入るように、仏教徒が山門に入るように刑務所に入るんです。検事の取り調べにもそう答えました」
既に答えを用意しているのだろう。まるで台詞を読み上げるような口調だ。
優遇区分や制限区分とは、受刑者の作業態度や受刑成績などによって、制限を緩める制度のことだ。テレビの視聴や、手紙や面会の回数、物品の購入、刑務官同行のあるなしなどが等級によって変わってくる。小島は一番良い処遇で、刑務所生活を送りたいと考えているのだろう。
──警察官に恨みがあるなら、無関係な人ではなく、警察官を殺すということは考えなかったんですか?
「私が事件を起こした後に、警察官が殺される事件がありましたよね。確か富山県と宮城県で。もし、そのニュースを先に見ていたら、私も警察官を狙っていたかもしれません。でもその前に事件を起こしているから、単純にその発想がなかったんです」
小島が事件を起こした同じ月の2018年6月26日、富山県で21歳の男が交番を襲撃し、警察官1人と警備員1人を殺害した。その約3カ月後の2018年9月19日には、宮城県で21歳の男が同じく交番を襲撃し、警察官1人を殺害している。拘置所にいながら、世の中で起きている事件をチェックしていることに、私は少し驚いた。
まるで台詞を読み上げるようにすらすらと答えるが…
──そもそも裏寝覚で餓死しようとしていた理由は何だったのでしょう?
「自分の意思ではなく受動的に死ねるからです。自分でひと思いに終わらせるのは嫌だったんですよ。餓死は老衰に近いと言われていますから。天寿を全うするのと近い環境で死ねるんです」
言っていることは異常だが、彼には彼なりの理屈があるのだろう。ただその理屈は、実体験から生み出されたものではなく、本からの知識に頼りすぎているような印象を受けた。
──ご家族は面会に来てる?
「おばあさんは、何度もここに来てるんですよ。でも一度も面会していません。服とか現金とか差し入れてくるけど、一切受け取っていないです。あ、本だけは受け取ってる」