発売僅か1カ月で累計9万部(電子含む)を突破したサイバーエージェント・藤田晋会長の新刊『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』。超実践的なリーダー論などが綴られたビジネス書として大きな注目を集めている。

 藤田氏は12月12日付でサイバーエージェント社長を退き、会長に就任。1998年に同社を創業して以来、ABEMA、インターネット広告、ゲームなどを軸に売上高8000億円超の企業に育て上げた日本を代表する経営者だ。 

 その藤田氏が自ら筆を執ってきた週刊文春の連載「リーチ・ツモ・ドラ1」より、連載と本書に込めた思いを明かした回を特別に無料公開する。(「週刊文春 電子版」12月25日配信)

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 この連載をまとめる形で書籍化された『勝負眼』が発売になり、1ヶ月が経った。

 大型書店やAmazonランキングでは1位になったし、何度も増刷が決まり、現時点で部数は9万部を超えた。表紙の帯に「渾身の13万字」とある通り、本当に精魂込めて書いた実感があるので、嬉しい。

 私はかつて、今回と同じくプロのライターの手を借りず、自分で執筆した書き下ろしを2冊出版したことがある。『渋谷ではたらく社長の告白』と『起業家』という、どちらも自伝本だ。これを完成させるのも大変だった。ざっくりだけど、1冊あたり、書くのに30時間、推敲に30時間、合計で60時間は原稿に費やしたと思う。

 しかし、今回の『勝負眼』を書くのに使ったトータル時間はそれを遥かに凌駕する。毎週、書くのに3時間、推敲に3時間。計6時間くらいとすると、書籍にはこれを52本収録しているので、本の完成に300時間以上を費やしたことになる。それなりに忙しい社長業の傍らで書いたんだけど、この1年半、一番頑張ったのはこの原稿だと思う。連載は今も続いているから現在進行形でもある。

続々重版で話題沸騰中

 もちろん時間を費やし、努力すれば読む価値のある本が完成する訳では無いのは分かっている。社内では、普段からABEMAの番組会議などで口酸っぱく「ヒットするものを作れ」「胸が張れるクオリティの作品を出せ」と高い水準を要求している手前、自分が書いた本が読む価値のないものであっては困る。

 だけど、ゲラの段階で自分で通して読んでみた時、(あれ? 結構面白いかも)と不思議と自信が湧いてきた。確信が持てた訳では無いけど、宣伝には力を入れることにした。各種メディアに出演したり、自分のSNSでも宣伝したし、文藝春秋も新聞広告や書店展開など売り出しに力を入れてくれた。

 このタイミングで、フォーエバーヤングが世界一になり、町田ゼルビアが天皇杯を優勝し、『勝負眼』にふさわしい話題が重なる幸運もあって、本の売れ行きが良い。社長を交代した今年の締めくくりに、私にとっては幸せな出来事であった。