2025年12月にサイバーエージェント社長を退任し、会長となった藤田晋氏。退任直前の11月には『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』を刊行し、累計発行部数が早くも10万部を突破するなど大きな話題を呼んでいる。
そんな藤田氏が社長時代に対談した相手が、通算タイトル99期の羽生善治九段だ。2人の議論は、AIとの付き合い方から、長考や確率論の罠、将棋とビジネスとの共通点にまで広がり――。
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藤田 例えば、生成AIで文章を書かせた時、血が通っていない感じでつまらない、という印象がありますが、将棋でも似たことは起こっているんでしょうか。
羽生 確かに、単にAIを真似るだけでは味気ないものになります。でも、それを取り入れ、自分の感性で肉付けすれば新しい表現になる。あくまでAIは補助で、結局は人間がどう使うかだと思いますね。テクノロジーの世界って、古い技術は一度駆逐されますが、将棋の面白い点は温故知新。昔やっていたことが部分的に役立つ時があるんですよ。
「AIを使わない選択肢はない」人間とAIが共存する組織を試行錯誤
藤田 将棋とAIの付き合い方は先駆的で経営の参考になりますね。会社組織においても、人が行っていた一部の業務はAIに置き換わりつつあります。一方で、AIで代替できるからといって会社に貢献してきた人たちを解雇できるわけもない。しかし雇用維持のためにAIを使わずに仕事をしていると、競合他社に負けてしまう。だから「AIを使わない選択肢はない」と宣言したうえで、エンジニアをはじめ全社員を対象にリスキリングを推し進め、人間とAIが共存する組織を試行錯誤しています。インターネットが出てきた時もそうでしたが、取り入れるのをちょっとサボると一気に遅れてしまいますから。
羽生 ただ、将棋のAIは強いんですけど、言葉で教えてくれません。示すのは数字と指し手だけ。今後、棋譜を言語化してくれる師匠や先生のような存在まで、AIに置き換わるのか、そこに興味を持っています。生成AIの進展も含め、実は大きなターニングポイントを迎えている気がしますね。
――他方で、人間対人間のドラマも将棋の魅力です。
藤田 ABEMAトーナメント(非公式の団体戦)では、長い持ち時間がある通常の対局とは異なり、フィッシャールール(初期持ち時間が各5分、一手ごとに5秒が加算)を導入したことで、一局2、30分程度で決着がつきます。スピーディーな展開を余儀なくされるから、プロでもこんな間違いするんだということもあって。どこか人間味を感じるんです。これ、羽生さんが考案したルールでしたね。
