フランドルとは現在のベルギー・フランス北部・オランダ南西部を指す地域名です。日本では英語読みのフランダースという言葉の方がよく知られているかもしれません。フランドルは、ファン・アイク兄弟という優れた画家が油絵技法を完成させた地でもあります。この地域の絵画は写実的な表現や、細部に至るまでの緻密な描写で知られます。本作は新約聖書に登場するキリストの12使徒の1人、聖ヤコブの物語を描いたもので、近寄ってじっくり観察したくなる細密な描き込みが画面全体に施されています。
作者不詳「聖ヤコブおよび聖ヨハネ伝の諸場面」 1525年 油彩・板 フルーニング美術館蔵
2枚の別々の絵に見えますが、実は1枚の絵をだまし絵的な金縁装飾で2つの場面に分けたもの。右側の背景に描かれた建築物の装飾とあいまって、それ自体が見ていて楽しい魅力的なディテールです。
左画面は、漁師だった大ヤコブと弟ヨハネが仕事中にキリストに見出される場面。左に立つのがキリストで、網を持っているのが使徒になる兄弟たちです。右画面は、兄弟の母親がキリストの前に進み出て、兄弟に天国で便宜をはかってくれるよう願い出たところ、その無思慮をたしなめられる場面を描いています。親心ゆえの行き過ぎた言動は、聖書の時代からあるものなのですね。周囲で他の使徒たちが、ちょっとむっとした表情をしているのも面白いところです。
構図は、左は自然を描いて曲線が多く、右は建築物を中心に据えた直線的で垂直性が強いもの。どちらもキリストを左側に立たせていますが、背景に合わせて左のキリストは体をひねり、右では直立しています。同じく、背景の人物たちも、左の方は自由なポーズをとり、右の人たちは総じて直立しています。
注目したいポイントはたくさんありますが、やはりフランドル絵画ならではの細かすぎるほどの背景描写が見どころでしょう。目立ちすぎる奇岩、装飾過多な建築物、波打ち際の貝殻などなど。遠景を青っぽい色で塗ることで遠近感を表す空気遠近法が用いられているので、細密でありながらも雄大な印象があります。他にも、1人ひとりの人物の身振りや表情なども変化に富んでいて楽しく、衣服も詳細に表され、陰の色を玉虫色で表しているところもあでやかです。
本作は、東京の国立西洋美術館が所蔵する「聖ヤコブ伝」とともに同一の祭壇画の一部か連作であったことが近年判明しました。現在、2つの作品を見比べられる貴重な展示が行われています。東京作品の絵具層の調査結果も合わせて紹介されているので、絵画制作のプロセスや使用された絵の具についても詳しくわかる嬉しい機会です。
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「フランドル聖人伝板絵 100年越しの“再会”」
国立西洋美術館にて2026年5月10日まで
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2025flemish.html



