この作品でまず注目してほしいのは、木版で作られているということ。浮世絵と同じ技法です。これだけ精密な絵なら、ペンで描いたとしても見事なのに、この黒い線をすべて凸状に彫り出した凄さを味わってみてください。
作者はアルブレヒト・デューラーというドイツ美術史上もっとも重要な画家のひとりで、油絵・銅版画・木版画など複数の技法に卓越していました。版画作品の場合、彫りの作業は別の職人に依頼することもあるのですが、本作は非常に質が高く、デューラー自身が彫りの作業にある程度関わったと考える専門家もいます。
アルブレヒト・デューラー「四人の騎手」『黙示録』5 1497/98年頃 1511年出版(ラテン語版再版) 木版 国立西洋美術館蔵
15世紀末に制作された本作は、それまでの木版画が比較的フラットな表現だったのに対し、繊細な線で細やかな陰影をほどこし、人物や馬の立体感を見事に描き出したことが画期的でした。線の肥痩、線を交差させて(クロスハッチングといいます)中間トーンや暗部を表しているところなどは大きな鑑賞ポイントといえます。
しかし、この絵の凄さは技術面だけでなく、主題の優れたイメージ化にこそあるのです。
では何が描かれているのか見てみましょう。題材は「新約聖書」の中でも最も謎めいて幻想的な「ヨハネの黙示録」(単にアポカリプスともよばれます)の中に出てくる四騎士という、世界の終末に地上に飢餓・戦争・悪疫・死をもたらす存在。画面の最奥にいる騎士は弓を手に王冠をかぶり、その手前の騎士は大きな剣を持ち、中央で最も目を引く騎士は秤を持っています。画面左下のやせこけた人物は「死」で、彼だけがやせこけた馬に乗っています。騎士はそれぞれ白・赤・黒・青白い馬に乗るとされますが、本作では色の描き分けはされておらず、青白い馬だけがやせた姿で区別されています。そして彼らの足元に折り重なっているのは、騎士たちの力で滅ぼされつつある人々なのです。
本作は四騎士を描いた絵として西洋美術の中でも代表的なものとされています。それというのも、デューラーが優れた構図で黙示録の夢幻的な世界観をリアルに視覚化したからです。騎士たちを右上から左下にかけて斜めに配置することで、全員を少しずつずらしながら登場させることができ、荒々しく前進していく躍動感も表すことができます。また、明部・中間トーン・暗部をたくみにコントロールしているので、登場人物が多く、細部も詳細に描かれているのに、情報が埋もれることなく、場面の状況や関係性がしっかりと見てとれます。
デューラーは1498年に「黙示録」を描いた15枚の版画と聖書の文章をあわせた画集を出版しました。画家自身が企画・編集・制作した歴史的に重要なものです。今回、国立西洋美術館で展示されているのは、その画集を1511年に再版したもののうちの一枚です。
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「物語る黒線たち―デューラー『三大書物』の木版画」
国立西洋美術館にて2月15日まで
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2025durer.html



