カール・ラーション(1853―1919)は19世紀後半のスウェーデン美術黄金期を代表する画家。当時のスウェーデン美術はドイツやフランスの影響が強く、スウェーデンらしさが確立されていないという問題意識がありました。ラーションは貧しい家庭に生まれ育ちますが、スウェーデン王立美術アカデミーに進み、のちにフランスに渡ってパリの南東70キロに位置する小村に暮らし始めます。そこで水彩画や戸外制作に取り組むなどして自分らしい表現を切り開こうとする試みの中、のちに伴侶となる画家のカーリンに出会ったのでした。

ラーションはこの家での暮らしぶりを描いた『ある住まい』という画集を1899年に発表し、国際的な人気を博しました
カール・ラーション「カードゲームの支度」 1901年 油彩・カンヴァス スウェーデン国立美術館蔵

 スウェーデンに帰国したラーションは首都ストックホルムの北西にあるダーラナ地方のスンドボーンというところに居を構えます。「リッラ・ヒュットネース」という名の家を、ラーションは妻とともに自分たち好みに、スウェーデンの民芸やイギリスの最新のトレンド、日本のものなどを組み合わせ、自分たちでデザイン・手作りをしつつ改装して内装を整えました。本作は、その家に近所の人々を招いてヴィーラというカードゲームを楽しむための準備をする様子を描いたものです。

 横長の画面を大きく占めるのはダイニングのテーブルで、右手ではカーリンが女主人としてお酒を準備していますが、彼女は室内装飾のデザインを手がけ、この空間を作り出したアーティストでもあることを考えると、自分の作品である部屋を紹介しているようにも見えます。左側にはティーセットが並び、こちらに視線を投げかけているのは、お菓子を運ぶかわいい子供たち(三女と四女)です。中央にはゲームをする部屋へ続くドアが開かれていて、この絵を見る人はこのゲームに招待されたような疑似体験を味わえます。

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 大きなテーブルを配しているのに圧迫感を与えないのは手前の空間をかなり大きくとり、奥の部屋、さらに窓を通して屋外まで見せることで広がりを感じさせるから。しかも、主要人物を両サイドに配置することで鑑賞者を画面の中へと引き込む働きがあるので締まって見えます。

 直線が多い画面ですが、不思議と柔らかくあたたかく感じさせるのは、ランプとろうそくの光が部屋を照らし出し、優しい影の揺らぎが生まれているため。さらに、油絵具を非常に薄塗りにしているので、緑と赤の対比で明るい中に、淡い軽やかさを感じさせます。

 ラーション家のライフスタイルは、モダンなスウェーデンの暮らしの理想形の一つと見なされていきました。それが描かれた作品群はスウェーデンらしい美術のひとつといえます。本作は今でいうところの、インスタで暮らしぶりを公開してライフスタイルそのものをコンテンツにする走りともいえそうです。

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「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
東京都美術館にて4月12日まで
https://www.tobikan.jp/exhibition/2025_sweden.html

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