「不良中の不良」馬場で、結果は…
結果は12着。敗因は分からないが惨敗だ。当日は重馬場だったけど、パリロンシャン競馬場の重馬場は日本で言えば不良中の不良らしい。実際国内の同距離のレースと比較して10秒も遅かった。スピード決着が多い日本の競走馬には、そもそも不向きだった可能性もある。私は絶句はしたものの、本当は悔しいとか落胆とかそんな感覚はなかった。
自分の話で言えば、馬主4年目にしてここに来られただけで快挙だし、苦労したことと言えばスケジュール調整を頑張ったくらいだ。自分の馬とはいえ、お金を出しただけとも言える。
それに比べ、矢作先生と厩舎の皆さん、坂井瑠星騎手の心中を察すると、胸が締め付けられる思いがした。
矢作先生は長い調教師人生の中で、凱旋門賞を制覇することを目標に掲げ、今回どれほど本気で勝ちに来ていたか、私には痛いほど伝わっていた。海外遠征にはとんでもなく繊細な段取りと入念な準備が必要で、過去の経験は全て糧になる。その総力を結集して今回の凱旋門賞に挑んでいたのだ。
厩舎の皆さんも、1ヶ月も前からフランス入りし、馬と共に過ごし、1ミリでも状態を上げるためならと、献身的にあらゆる努力を尽くしていた。
坂井瑠星騎手は、今や日本のトップジョッキーだけど、競馬一家に生まれ育ち、競馬学校を卒業し、世界で活躍するジョッキーを目標に掲げ、ようやく手が届くところまで来た。
馬主の私以外、みんな競馬に人生の全てを捧げている人たちばかりだ。それでも、厩舎の皆さんは「オーナーの馬を預かっている」と言ってくれるし、騎手は「オーナーの馬に乗せてもらう」と言ってくれる。私のオーナーとしての基本的なスタンスは「プロを尊重して任せる」だ。その方針に至ったのは、自らの体験に依る。
