警視庁公安部の佐島は、ある殺人事件の被疑者取調べに駆り出されることになった。被疑者は佐島の大学時代の友人・稲澤。彼は部下の女性を殺した容疑をかけられていた。被害者はなぜか、二人が学生時代に共に恋焦がれたものの若くして亡くなってしまった女性・綾と瓜二つで……。

 人気警察小説シリーズを手掛ける名手が最新作で挑んだのは、視点人物の異なる五編を通して一つの事件の全貌を明らかにするミステリーだ。

誉田哲也『たとえば嘘という名の孤独』(文藝春秋)

「僕は長編を書くとき、いつ誰が何を知るか、どこで誰が死ぬかなど、最初から最後まで全てプロットを固めてから書くんです。

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 でも今回は、先のことは決めずに一編目の『レイン』を書きました。一つの短編は“器”のようなもので、そこで語り切れないものが漏れ出していく。それを掬い上げる新たな“器”を作って、でもまた溢れて、という作業を五回繰り返して長編になったのがこの作品です。こんなふうに書いたのは、2008年に発表した『ヒトリシズカ』以来のことで、僕にとっては珍しいやり方ですね」

 二編目は佐島とは別の公安部員、三編目からは刑事へと視点人物が移っていく。公安と刑事は同じ警察官といえどその性質は全く異なり、事件の捉え方もアプローチの仕方も違う彼らがそれぞれの思惑を持って事件に関わっていく。

「一般企業と同じように、刑事と公安それぞれに特有の“企業論理”みたいなものがあるんです。

 この作品に出てくる警察官はみんなそんなに優秀じゃないんですよ。現状に不満を持ちつつ、でもプライドもあるから必死に頑張っている。それでもうまくいかなかったり、『まあこれくらいでいいか』と妥協したりする。尊敬できる部分と尊敬できない部分の両方を持った警察官たちが、なんとか事件の真相にたどり着こうとする姿が、書いているうちに愛おしく思えてきたんですよね。そういう意味でも僕の中では少し変わった作品になりました」

 特捜は被害者女性の正体に翻弄される。新事実が判明するたびに、むしろ真相が遠のいていくかのよう。息もつかせず読ませる本作は、タイトルにも秘密があるという。

「最後の二編『ライズ』『アイズ』にはそれぞれ『たとえば孤独という名の嘘』『いつか永遠という名の瞳』という長めの副題をつけています。これは、とある映画作品をオマージュしています。タイトルの単語や構造に着目してちょこっと検索していただけたら何の映画かお分かりになるかもしれません」

誉田哲也(ほんだ・てつや)

1969年東京都生まれ。2002年に『妖の華』でムー伝奇ノベル大賞優秀賞を受賞しデビュー。著書に〈姫川玲子シリーズ〉〈武士道シリーズ〉〈ジウシリーズ〉など多数。

たとえば孤独という名の嘘

誉田 哲也

文藝春秋

2025年11月21日 発売

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