『ジウX(エックス)』(誉田哲也 著)中央公論新社

 総選挙の真っ只中、あるグループが総理大臣を新宿駅前で拉致し、歌舞伎町を占拠して治外法権を要求した「歌舞伎町封鎖事件」。誉田哲也さんの『ジウX』はそれから11年後が舞台だ。

「『ジウ』とタイトルにつけたので、クライマックスにど派手なアクションシーンをきっちり描きました。『ジウⅢ』のときのように、平面図の上で登場人物たちの動きをシミュレーションしながら書いたんです」

 生きたまま臓器を摘出された死体が発見され、東弘樹警部補らが捜査にあたるが、数カ月経っても被害者の身元が判明しない。そんななか、法で裁けない悪人を始末する殺し屋集団“歌舞伎町セブン”の一人である陣内陽一のバー「エポ」に奇妙な集団客が訪れる。そして一人の女性が、11年前の事件を首謀したとされるテログループ「新世界秩序/NWO(New World Orderの略称)」について話し始めた――。

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「読者さんから『次あたりは歌舞伎町セブンと全面対決だな』という感想があり、NWOについていずれ書かなければと思っていました。シリーズ10作目というキリのいいところで、歌舞伎町セブンと対峙する作品にしようと考えたんです」

 本作だけでも十分面白いが、〈ジウ〉サーガの他の作品を読むとさらに楽しめる。誘拐や歌舞伎町封鎖事件を引き起こしたNWOや謎の少年ジウと、警察の攻防を描いた初期三部作『ジウⅠ』『ジウⅡ』『ジウⅢ』は2005年12月から06年8月に刊行された。

「ノベルスがあった時代に、とりあえず3作は書いてねと言われて始めました。そして、ジウを追った東警部補を主人公にしたのが『国境事変』です」

 その後、『ジウⅢ』の文庫化がきっかけで『歌舞伎町セブン』が生まれることに。

「『ジウⅢ』の文庫版の最初のカバー写真は、営業を終了した新宿コマ劇場の屋上で撮りました。現場にいた7人で記念撮影したら、ガッチャマンみたいに意外とかっこよくて『“歌舞伎町セブン”なんつって』と話したんです。僕はテレビドラマの『必殺仕置人』のファンで、歌舞伎町が舞台ならできるなと。僕の哲学では、必殺系の仕置人は強いというより、うまくなきゃいけない。セブンのメンバーはドンパチやるわけではなく、音も立てずに、気づいたときにはもう遅いという闘いを仕掛けます」

『ハング』ではセブンのある人物の前日譚が描かれ、『歌舞伎町ダムド』でセブンがジウの生まれ変わりという人物と対決し、『ノワール 硝子の太陽』で姫川玲子シリーズとコラボ。短編集『歌舞伎町ゲノム』、そして『ジウX』でシリーズ累計300万部を突破した。

「すごい事件がどっかんどっかん起きるのはおかしいんです。歌舞伎町セブンだって普段はちっちゃい殺しをやったり、『これはやらない』というときもあるので『ゲノム』を書きました」

 最新作では、NWOが何にこだわり、何を目論んできたかが明らかになる。

「彼らなりに一応守ろうとしていたものがありました。犯罪の背景や犯行の動機、捜査の過程でぶちあたることなどから、人はこういうときにどう考えたらいいのかとか、どう生きるべきだろうかということが浮かび上がってこなければ小説だとは僕は思いません。遺体の描写がグロいと言われることもありますが、警察官がそこから目を背けちゃいけない。同じように、現実社会で日本が危機に直面していることは無視できないから、今回書きました。NWOに関して言えば、話が大きすぎるし、敵がまだいる。まだ終われませんね」

ほんだてつや/1969年東京都生まれ。2002年『妖の華』でムー伝記ノベル大賞優秀賞受賞、03年『アクセス』でホラーサスペンス大賞特別賞受賞。『ストロベリーナイト』などの姫川玲子シリーズ、『妖の絆』『アクトレス』など著書多数。