コミケ会場に現れる謎の「雲」

 何十万人が集まるコミケでは、“異常気象”が発生する。それが夏になると屋内に発生する「コミケ雲」。飛行機雲やうろこ雲などと同じれっきとした気象現象の「雲」である。季節限定の「夏雲」だ。

 一般的な雲と決定的に違うのは「すっぱいニオイ」がする点だろう。なぜならコミケ雲は、萌える本の売り切れを恐れ、熱き血潮の男たちが早歩きで驀進して、「風呂上がり?」と思うほど頭から立ち上る湯気、そして乳首が透けるほど汗を吸ったTシャツから立ち上る蒸気が、天井付近に溜まるのだ! そこにエアコンの冷風が当たり、天井付近で汗の水蒸気が結露して、霧のような雲ができる。

 一般にコミケ雲が初観測されたのは2013年の東京ビッグサイトといわれている。西館で企業の頒布品を入手した有志と、東館で萌え同人誌を入手し鼻息を荒くする同志が、行きかうのが東西連絡通路。ここの通路は非常に狭くなっており、天井も低く、追い打ちを掛けるように左右がガラス張りになっているため、東西館を行き交うオタクたちで大混雑。ただでさえ直射日光が差し込むので、通路は「漢(おとこ)サウナ」と化し、汗の蒸気が大量発生する。そこに低い天井から吹き出すエアコンの冷気で、雲が発生しやすいのだ。

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2007年夏開催の「コミックマーケット72」の様子 ©︎時事通信社

 かくいう筆者も汗を蒸発させていたオタクのひとりで、コミケ雲を何度か目撃している。筆者が実際に目撃したのは、ビッグサイト会場よりもっと前の1987年8月8日。それまで東京モーターショー(現Japan Mobiliyty Show)を動員できるほど大きな晴海の東京国際見本市会場で開催されていた。ところが急遽キャパシティ4000人あまり(広さは地方の2階建ての駅前スーパーぐらい)の東京流通センター(TRC)に変わり、そこに4400サークル、6万人が押し寄せた時だった。

 サークル参加していた筆者は、魔法少女の同人誌を入手しようと移動すると、エスカレーターの踊り場にコミケ雲が! まわりのオタク同志たちと複数人で目撃している。当日の気温を調べると気温32.1℃、湿度79%と蒸し暑かった上に、過去最高の混雑が起きたコミケとされており、階下からも湧き上がる同志たちの大量の汗の水蒸気が奇跡を生んだのだ。

東京流通センターでサークル参加した筆者とメンバー。左下でアニメグッズ(変身バトン)を持つのが「きんもーっ☆」な筆者

 だが近年はコミケ雲が発生しにくくなっているという噂だ。ビッグサイトがエアコンを改善したのかもしれない。