日本で最も大きな“祝祭”
ここ数年、流行した言葉のひとつに「界隈」がある。アイドル界隈、演歌界隈といったふうに、何かジャンルを好きな人たちのことを指した言葉だ。
なぜ界隈という言葉が流行ったのか。それはSNSの登場によって、それぞれのジャンルのなかでの拡散が可能になったからだ。私はアイドルが好きだが、アイドルを好きだとアイドルが好きな人のなかだけの流行がある。界隈ごとに、流行がある。
が、紅白歌合戦は違う。年末に、帰省した家族が集まって見たり、SNSでは普段違う話題で盛り上がっている人たちがいっせいに見てコメントしたりする、日本の老若男女みんなが見やすい番組だ。年末という時間を、人気歌手が歌うことによって共有する、日本で最も大きな「ハレ」の祝祭である。
だとすると紅白とは、いま日本で最も大きな、「界隈」を超えられる祝祭である。そう言えるのかもしれない。私は審査員席からステージを見つつ、そんなことを思っていた。
紅白にある“偶然性”
もちろん、ほかの歌番組でも、界隈の異なる歌手が一緒に歌ったり、他のグループの曲をカバーしたりすることはある。が、紅白歌合戦の場合は、単なるコラボレーションではなく、「適当に並んでいる場においてたまたま横になった歌手同士が一緒に肩を組む」場面や、「その場においては脇役であってもステージを全力で楽しんでいる」場面を目撃できる。それがなによりの魅力なのではないか。
そう、案外、紅白歌合戦は偶然性に満ちている。
仕組まれすぎていない。行き当たりばったりなところもある。でもそれこそが音楽の楽しさじゃないか。思わず体が踊り出して、横にいる人と肩を組みたくなってしまう。ライブってそういうものじゃないだろうか。
AIが発展し、計算されきったものに疲れた私たちにとって、たとえば堺正章さんとちゃんみなさんとTUBEの前田さんが肩を組むような、そういう偶然性こそが、私たちの新年を寿いでくれるのかもしれない。(つづく)



