そこから僕が退社するまでの12年間、小柳津さんはずっと一緒に働いてくれました。元・日本マイクロソフト社長の平野拓也さんも、Giverタイプの経営者でしたね。「5年に1回、自分をクビにする」というマインドセットを持っていて、肩書きを失ったときに一個人に戻って何ができるかを考える方でした。Giverは、組織から与えられた地位や権力にあまり価値をおかず、つねに自分自身がどうまわりに貢献できるかにフォーカスするんです。

「互いに協働する」文化が根付くと業績も飛躍する

──サティア・ナデラがCEOになってから、マイクロソフトの社内文化が刷新されたことも大きかったのでしょうか。

 もう劇的に変わりましたね。詳しくは本書に書きましたが、特に大きかったのは「他者への貢献(Contribution to others)」が人事評価の中に明文化されたことです。自分の数字を達成するだけでなく、「他者の成功をどう助けたか」が評価される。これによって社員のマインドセットが激変しました。

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 もともとマイクロソフトは世界中から人材が集まってくる多様性の高い集団です。するとメンバー同士の前提条件や文化的背景がまったく異なるわけです。日本の会社のように「みなまで言わなくても分かるだろう」というマネージメントは通用しません。明確に言語化しない、明文化しないのはマネージャーの怠慢とも言えます。サティア・ナデラがGiver的な貢献を積極的に評価するルールにしたことで、「互いに協働する」という社内的なコンセンサスも一気に進んでいった。

 だからといって、もちろんKPI(数値目標)がなくなったわけではありません。仕事は相変わらずハードでしたし、売上の責任もありました。しかし、数字目標と風通しのよい助け合いの文化は両立するものなんですね。互いにgiveしたほうが組織全体でむしろパフォーマンスは上がったと感じました。生産性が大きく向上し、株価も上がったことはマイクロソフトの歴史が示す通りです。

分け与えると幸せの総量が倍になる

――Giverが増えることで日本のビジネスシーンも明るい展望が開けますか?

 間違いなくよい未来が待っていると思います。Giverはなにも利益を度外視して分け与えろとか、搾取されても与えろというのではありません。他者をハッピーにするために自分や組織が無理なく何ができるだろうと考えるマインドセットの話です。

 たとえば目の前に自分の買ってきたホールケーキがあるとして、相手に半分与えたとしたら物理的には半分に減ります。ここでケーキを半分「損した」と発想するのではなく、与えたことで相手がハッピーになって、“幸せの総量が倍になった”と捉えるんです。与えることでより多くの幸福を生み出すことに成功しているのは、とても素敵なことだと思いませんか? Giverになると世界の見え方が一変しますし、仕事においても新しい扉が開きます。

 本書には、人をハッピーにし、内発的に動かすスキルについても惜しみなく盛り込みました。AI時代に不安を感じていたり、自分のキャリアに悩んでいる人にも大きなヒントになる一冊だと思います。

 この本がみなさんの人生にとってギフトになることを願ってやみません。

The Giver 人を動かす方程式

澤円

文藝春秋

2026年1月15日 発売

INFORMATION

刊行記念イベント
【1/ 19 (月)】澤円 ✕ 田中渓「“与える”ことは最高の仕事術である」
青山ブックセンターにて
https://aoyamabc.jp/collections/event/products/2026-1-19

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