「恋愛じゃないですか」と推測をぶつけた
私はそのとき、突っ込んで確認していない。話がそれてしまうのを危惧しただけでなく、過度にプライベートな領域に立ち入るのを躊躇していた。取材者として、寿子との関係が気まずくなるのを避けたい気持ちもあった。
しかし、思い直した。あと数週間もすれば、寿子は質問にまともに答えられなくなる。寿子は進んで体験を告白している。言い残しておきたいのかもしれない。
他者の命と向き合い続けた寿子だった。自分の命に関してどんな経験をし、何を考えていたか、聞いておきたかった。
「自殺未遂について聞いてもいいですか」
寿子は私を見ながら、なぜか笑みを浮かべた。
「私にとっては大きな経験でね」
「何が理由だったのですか」
「……」
2秒、そして3秒。沈黙に耐え切れず、私は推測をぶつけた。
「恋愛じゃないですか」
寿子はうなずいた。
「そうです。好きな人がいて、その彼も私を愛してくれたんです。私が大学の近くに下宿しているとき、よく会っていました。二人で一緒に私の実家に帰ったときです。振られたような、振ったような、ごたごたがあったんです」
帰省先の高松で睡眠薬を大量に飲んだという。倒れているのを家族が見つけ、すぐに救急車で搬送された。胃を洗浄して一命を取り留めた。
「気がついたとき、母が泣いていた。私のために涙を流してくれる人がいるんだとわかった。生きているだけでも、人は他者を幸せにできると知ったの。二度とバカなことをするものかって。神様に与えられた命です。これを用いてもらいたいと思ってやってきました」
「命を粗末にしたらあかん」
自殺未遂については高校時代の親友、森下利江が知っていると、寿子は明かした。私がその後、確認のため連絡を入れると、森下は確かに記憶していた。
「寿子ちゃん、そんなことまで話しましたか。何でも語り残そうと覚悟したんですね」
森下によると、大学1年か2年の休みの時期だった。寿子はすでに劇団四季の研究生で、少し年上の男性と恋愛をしていた。その男性が寿子の実家でアルバイトをしているとき、別の女性に気を移したという。
「確か高知県出身やったと思います。その彼ともめて死のうとしたんです」
私の関心は、この事実が寿子の思考に与えた影響にあった。その点について森下はこう言った。
「メイク(MAWJ)で活動する原点はあの自殺未遂にあるんです。命を粗末にしたらあかん。ぎりぎりまで命を大切にするって。私にはっきりと、あれが原点になっていると言いました。命の重みを知った。限りある命を精いっぱい生きる。それが大切やって。メイクの原点やって。私にそないに言いました」
