匿名の投稿が不特定多数に読まれる某巨大匿名掲示板が広く知られるようになるちょっと前、生まれたり消えたりを繰り返しながらも増え続けていた掲示板と言えば、出会いサイトが思い出される。あのころ「出会い系」という言葉はまだなかったような気がする。

業者が間に入って課金することもなく

 出会いサイトでは、年齢・性別・居住地域に自己紹介を添えた投稿から出会う相手を探す。いまとそう変わりないシステムだ。気に入った人を見つけたら、投稿者自身が指定したメアド(たいていは捨てアド)にメールを送る。いまと違う点は、業者が間に入って課金することもなく、なんとも牧歌的だったことか。

 投稿主と相手はどちらも匿名だが、連絡方法がメールであるがゆえ、二人のやりとりがそのまま出会いサイトの掲示板に晒されることはなかった。ネットで「出会った」あとは、見知らぬ者同士が密室の会話を楽しむのだ。まぁ、たいていの人にとって、ゴールは性的な関係に持ち込めるか否かだったろうけれど。

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 当時、私の友達はネカマをやっていた。正確には、異性愛者が集う出会いサイトでネカマをやりながら、そのやりとりを逐一自分のホームページに晒し上げていた。サイトの趣旨は愚弄した男を嗤うこと。サイトの主もそれを見ている方も、悪趣味以外のなにものでもない。

己の性格の悪さがくっきりと立ち昇るようなサイトだった

 ネットで女に化けた男を必死で口説く男たちのエネルギーはすさまじく、すさまじいからこそ滑稽さも抜群だった。見てはいけないものを見ている後ろめたさはあったが、やはりどうしても笑ってしまう。すさまじく口説かれた経験のなかった私としては、袖にされる男たちの姿に溜飲が下がる思いもあった。彼の作ったネカマサイトは読む者の性根が試されるというか、楽しめば楽しむほど己の性格の悪さがくっきりと立ち昇るようなサイトだった。

 女に化けた男は、どんな属性の女がなにを言えば男を喜ばせるか、なにを言えば男を傷付けるかを実によく知っていた。そして、相手を女と思い込み、これが一対一のやり取りだと信じて疑わない男たちの反応には、うっすらと共通点があった。