「付き合えるのなら付き合いたいけど…」

 このような風潮のため、若い頃にアイドル的な人気を博した男性声優は、40代や50代になっても結婚について公表できない現実がある。声優オタクからすれば「キャラクターを守るため」との方便もあるようだが、その「キャラクター」とは、「声優が演じる二次元のキャラクター」だけにとどまらず、「声優が舞台で見せるキャラクター」にも及ぶ。

「ファンに見せる姿は、一生そのままでいてほしい。ずっと変わらないでいてほしい。別にそのままでいいんじゃないか、っていう思いがあって、それは人間として……、声優さんを人間として見てないのかもしれない。声優さんのことも、キャラクターとして見ている、のかも……」

 では、疑似恋愛の対象としては見ていないのだろうか。

ADVERTISEMENT

「そりゃあ、付き合えるのなら付き合いたいですよ。そういう妄想はします。でも、男性だって『浜辺美波と付き合えるならどうする?』と聞かれたら、同じように答えるんじゃないですか? だからといって、普段からそこを目標に行動しているわけじゃないですよね。だから恋愛対象として見ているというよりは、『夢女子』のほうが感覚的には近いのかもしれません」

自分とは別の“夢小説用の人格”

 彼女が引き合いに出した「夢女子」とは、好きなキャラクターとの恋愛を描く二次創作小説である「夢小説」を愛好する女性読者のことである。夢小説の起源は1990年代まで遡るが、ネットの普及後は、読者が主人公の名前をブラウザで任意に登録できるような仕組みになり、より没入感を高められるようになっているサイトが多い。

「でも夢小説は、自分の名前を登録できるからといって、等身大の自分が『推し』と恋愛する小説を楽しむ、というだけでもないんです。自分とは地続きだけど、自分とはまた違った……“夢小説用の人格”みたいなものがあって、そのフィルターを通して『推し』と恋愛するのを楽しむんです。乙女ゲームもその文脈を継いでいるんじゃないでしょうか」

 世間一般が解釈する疑似恋愛よりも、妄想としての強度が高いということだろうか。

「推し」という病 (文春新書)

加山 竜司

文藝春秋

2026年1月16日 発売

次の記事に続く 「女っぽくなっていくのに抵抗」「私の好きだった“推し”じゃない…」アイドルファンの40代女性が“推しの成長”を喜べなかった本当のワケ