1984年、1人のトルコ人留学生の抗議が、日本中で使われていた「トルコ風呂」という呼称を揺るがした。「売春施設に自国の名前がついているなんて、とんでもない」――愛国心から発せられた声が日本に与えた影響とは? ノンフィクションライターの高木瑞穂氏の新刊『ルポ 風俗の誕生』(清談社Publico)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む

写真はイメージ ©getty

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トルコ風呂を変えた留学生の怒り

 トルコ風呂にとある問題が生じたのは、1984年のことだ。

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 そのとき東京大学で地震学を学んでいた若きトルコ人留学生ヌスレット・サンジャクリは、「不愉快だ」としてトルコ大使館を通じて当時の厚生大臣に苦情を入れた。

 これを受けて厚生省生活衛生局指導課長は同年、各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部(局)長あてに、「特殊な浴場業の店舗名の健全化について」と題して以下のように通知した。

〈最近、我が国の国際的交流はますます活発となっているが、このようななかで、我が国において、いわゆるトルコ風呂の名称がその本来の語源及び浴場形態と全くかけ離れて、個室において異性の客に接触する役務を提供する営業を主目的とする施設の名称として一般化し、このため、その呼称が我が国とトルコ共和国との友好的な信頼関係を損いかねない状況になりつつある。

 ついては諸外国との良好な親善関係の一層の発展のため、浴場の名称については「トルコ」、「○○大使館」等諸外国の国名、地名、人名、ブランド名等の名称、または公共施設、教育施設に関する名称等を使用しないよう関係業界及び営業者の指導方よろしくお願いする。

 また、公衆浴場の許可に当たっては、公衆浴場の名称につき前記趣旨を勘案し、適宜指導を行うとともに、関係業界における、名称変更を行う等の動きと併せ、名称変更についての指導を積極的に進め、その変更手続についてはこれが円滑に行われるよう善処方よろしくお願いする。〉