また、男性から性犯罪の被害を受けた女性が、男性という存在自体に恐怖を感じるようになり、仕事を辞めざるをえなくなった、自転車でひったくりに遭った被害者が「また同じ目に遭うのでは」という不安感から自転車に乗れなくなり、通勤経路を変えるため引っ越しをしなければならなくなった、というようなことも起こります。

 こうして枚挙にいとまがないほどの不都合が犯罪被害者には生じるのです。だから私は代理人として、賠償が取れそうな時は「当然の権利だから受け取れるものは受け取ったほうがいい」と請求することを勧めています。

被害に遭ったうえに貯金を使い果たし、仕事もなくなったら

 中には「私はお金なんかいりません」「加害者からの汚いお金は受け取りたくありません」と言う人がいるのですが、現実的な問題として、あとから生活に困窮してしまうというケースもよくあるのです。

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 まとまったお金を受け取り、金銭的な余裕ができれば、仕事を休めますし、治療もしっかり受けられます。自宅近くで被害に遭ったなら引っ越しもできます。仕事を辞めざるをえなかった人なら、新しいスーツでも買って気分一新して就職活動をすることができるかもしれません。体調がある程度回復していれば、パーッと美味しいものを食べたり、旅行に行ったりするのもよいでしょう。

 こうした気持ちのリセットも、被害から回復するためにとても大事なことだと思います。被害に遭ったうえに貯金を使い果たして、仕事もなくなって、不安感で家から出られなくなり、ご飯もろくに食べられない……そんなことになったら被害回復はまず望めません。

 賠償金の請求に躊躇をする方には、「お金に色は付いていないし、賠償金は私の弁護士口座に振り込まれて綺麗なお金になってからあなたの口座に振り込むから大丈夫。マネーロンダリングみたいなもの」と冗談めかして話したりします。そうすると、抵抗なく受け取れるようですので、やはり気持ちの問題が大きいのだと思います。

写真はイメージ ©︎beauty_box/イメージマート

 また別の角度から損害賠償の意義を考えた時、賠償金を払わせることは加害者のためでもあると思います。罪を犯したら、被害者に対して刑事罰だけでなく、金銭賠償もしなければならないということになれば、それは再犯に対する抑止力になるでしょう。特に規範意識の低い犯罪者には、刑事事件でたとえ執行猶予が付いたとしても別途賠償金を払うことになれば、「犯罪は割に合わない」ということが身に染みて分かると思います。

賠償金が起訴の分水嶺になることも

 刑事事件の場合、賠償金を受け取るタイミングが重要です。

 本来なら加害者の刑事処分と被害弁償は別物ですが、処分よりも先に被害者がお金を受け取ってしまうと、それを理由に検察官が加害者を略式起訴(正式な裁判をせずに、書面審理で罰金・科料を求める裁判手続き)や不起訴処分にしてしまうケースが多くあります。加害者側にとっては罪を軽くするチャンスとなりますので、例えば「今なら200万円払うけれど、公判になったら弁護士費用などもかかるし払えない」と被害者に持ちかけて賠償金を支払い、加害者が刑事処分を免れたり、起訴されても刑が軽くなるように弁護人は動きます。