被害者が弁護人の言葉を真に受けて、「今でないと賠償金はもらえなくなってしまう」と思い込んでしまうのはやむをえないことです。お金を受け取ったことが原因で加害者が罪に問われなかったことをあとから知り、「何か変だな」「お金をもらわなければよかった」と後悔する方も多くいて、これも被害者に代理人がついていないゆえに起こる悲劇だと思います。
もちろん、賠償金を受け取るか受け取らないかは被害者本人が選ぶことですが、どのタイミングで受け取るのがよいのか、起訴後だとどうなるか、そうしたメリットとデメリットの説明をしっかりと受けていれば、被害者も自分の希望に沿った選択ができます。
被害者の意向次第ではありますが、金額が高いからといって、処分前に安易にお金を受け取ることは積極的には勧めていません。まず、検察の感触を探り、お金を受け取ることが起訴するかどうかの分水嶺になるような時は、被害者にその旨を説明したうえで、方針を決めています。
被害者が、何よりも加害者に刑事罰を与えることを第一に考えている場合は、起訴前には受け取らず、起訴後であっても賠償金を減らされないように、できる限り1円でも多く取れるよう尽力します。ただ、本当に生活が困窮してしまい一刻も早くお金を必要としている方もいますので、そうした時は加害者が略式起訴や不起訴処分になる可能性があることを承知のうえで、先に賠償金を受け取ることもあります。
子どものためにやってあげられること
ここまで述べてきた通り、被害者が加害者から賠償金を受け取るのは当然の権利であり、被害回復のためにも必要なことです。そのため、私は、被害者が少しでも被害弁償を多く受け取れるように活動します。
ただそんな私でも、訴訟をしてまでの賠償金の請求を積極的にお勧めしない、躊躇してしまう場合があります。それはお子さんが亡くなった交通事故のケースです。
交通事故の場合、たいていは加害者側の加入している保険会社との交渉で補償額がまとまります。しかしながら、お子さんを亡くした親御さんは「絶対に示談をしない」と納得せず、民事訴訟を希望される方が多いのです。それは金額が多い少ないにこだわっているのではなく、「子どものためにやってあげられることを全てやってあげたい」という思いからで、私も子どもを持つ親としてそのお気持ちは分かります。気持ちは痛いほど分かるのですが、訴訟によりかえって辛い目に遭う場合があると知っているため、強くはお勧めしたくないのです。