一般的に刑事事件の弁護士は加害者の減刑に尽力するが、犯罪に巻き込まれた被害者側に立って司法手続きやマスコミ対応等に奔走する弁護士も存在する。「犯罪被害者代理人」だ。彼らはいったいどのようにして被害者、被害者家族に寄り添っているのか。
弁護士の上谷さくら氏の著書『犯罪被害者代理人』(集英社新書)の一部を抜粋し、交通事故の被害者支援を行った際のエピソードを紹介する。
◆◆◆
交通事故の被害者支援─田中圭さんの事件
2010年9月29日、田中圭さんという30歳の青年が事故で亡くなりました。塾講師として夜遅くまで翌日の準備をしたあと、原付バイクで帰宅途中に、後ろを走行していたトラック運転手のわき見運転が原因で、背後から原付バイクもろとも轢かれて亡くなるという、とても辛い事故でした。
弁護士になって最初に勤務した法律事務所が損害保険会社の顧問をしていましたので、保険会社の立場から交通事故事案は多く経験していましたが、被害者が亡くなった事故で被害者の代理人を務めたのは初めてでした。まだ私の娘が0歳で、慣れない育児にてんてこ舞いしていた時期でしたが、多くの経験を通じて、私の弁護士人生の方向性を決定づけた事件だと思います。
この事件の依頼者は、圭さんのご両親です。被害者支援都民センターからの紹介でした。鷲尾洋子さん、横田美雪さんという、長年被害者支援に携わってきたスペシャリスト2人が、事故のあと、間もなく圭さんのご両親を支援していました。
初めての相談は、2010年11月25日。鷲尾さん、横田さんと一緒に、圭さんのご両親が事務所にいらっしゃいました。すでに横浜地検で遺族調書を取られていて、公判で被害者参加制度を利用したいのだけど、どうしたらいいのか、という相談でした。
お父さんは田中資二さん、お母さんは三原和枝さんといいます。ご両親の苗字が異なっているのは、その時離婚していたからですが、実は、圭さんが仲を取り持って、復縁を考えていたところでした。
「圭は本当に素晴らしい息子だったんです」
初対面で私が最も印象的だったのは、和枝さんの「圭は本当に素晴らしい息子だったんです。中途半端な私の人生の中で、圭だけが誇りだったんです」という訴えでした。大きな茶色がかった瞳に「これだけは絶対に伝えたい」という強い意志が宿っていると感じました。
私は、その気持ちを全部受け止められるだろうかという不安を感じつつ、これは受け止めなければならない、やれることは全部やろうと覚悟を決めて、依頼を受けることにしました。当時、子育てのため仕事はセーブしていましたが、家族の協力があれば仕事に費やす時間はもっと増やせる環境にありました。
ご両親とさまざまなやりとりをする中で、私は圭さんにご焼香させてほしいと考えていました。この点は難しいところで、ご遺族によっては「弁護士にそこまで踏み込んでほしくない」という方もいて、距離感の取り方は人それぞれなのです。
