「現場を見てよかった」

 さて、検事と約束をしたものの、私が住む都内の自宅から神奈川県横浜市の事故現場まで、深夜に往復できる公共交通手段がありません。私は夫に、車を出してもらえないか、そして夫の両親に娘を見てもらえないか、と頼みました。すると、夫も夫の両親も快諾してくれたので、夫の両親に自宅まで来てもらって娘を見てもらい、私は検事と待ち合わせをしたファストフード店まで、夫の運転する車で向かい、検事と合流しました。

 事前に検事が道路状況などを警察に細かく確認してくれており、迷うことなく事故現場に到着しました。私がそこで見た光景は、道路沿いのライトに煌々と照らされた片側一車線の幅広い平坦な直線道路でした。繁華街ではないので、ライト以外に目を奪われるものはなく、道路にデコボコもありません。事故当時は雨も降っておらず道路は乾いていました。絶対に事故など起こりようのない道路でした。

 私が検事に、「この状況で後ろから轢いてしまうって、ありえなくないですか? それなりの時間わき見運転していないと、前のバイクに気づかないってことはないですよね?」と尋ねると、「その通りですね」「現場を見てよかった」と話してくれました。私は、こんな風に事故に遭って亡くなってしまうんだ、ということに衝撃を受けながら、資二さんと和枝さんのために全力を尽くさなければならないと決意を新たにしました。

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ご遺体の写真

 その数日後、被害者参加についての打ち合わせのために、資二さん、和枝さん、都民センターの鷲尾さん、横田さんと一緒に横浜地検を訪れました。刑事事件記録には、ご遺体の写真なども含まれますが、それをご遺族に見せるかどうかは打ち合わせの時にご遺族と話し合って決めたいと検事から言われており、私にも渡されていませんでした。

 ご両親は、事故直後の圭さんのご遺体と対面しています。ただ、それと「事件の証拠」として写真になっているものを見るのとは、場面も気持ちも違います。横浜地検のある部屋の中で、検事から意向を尋ねられたご両親は、写真を見るかどうか迷っていました。

 和枝さんは目に涙を浮かべ、体を震わせながら「どうしていいのか分からない」「見たくないけど、見なかったら後悔すると思う」と苦しそうに声を絞り出していました。資二さんは伏し目がちにその様子を見守っていました。

 その時、鷲尾さんが突然、和枝さんを抱きしめて「本当は見たいんです。でも怖いんです!」と声を上げました。あとから知ったのですが、鷲尾さん自身が、居眠り運転の車に正面衝突された事故で夫を亡くした交通遺族であり、それまでに多くのご遺族を支援してきた経験から、和枝さんに寄り添ったとっさの言動だったのだと思います。