犯罪被害者が加害者に損害賠償を請求すると、なぜか後ろ指を指されることがある。しかし、現実はあまりに過酷だ。治療費、休業損害、転居費用、そして精神的ケア。被害に遭った瞬間から、被害者は経済的にも追い詰められていく。
だからこそ『犯罪被害者代理人』(集英社新書)の著者、弁護士の上谷さくら氏は「お金に色は付いていないし、賠償金は私の弁護士口座に振り込まれて綺麗なお金になってからあなたの口座に振り込むから大丈夫。マネーロンダリングみたいなもの」と冗談めかしてでも、被害者に賠償金の受け取りを強く勧める。しかし、中には訴訟をしてまでの賠償金の請求を積極的にお勧めしないケースもあるのだとか。いったいどういうことなのだろう。同書の一部を抜粋して紹介する。
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治療、休業、引っ越し……被害者にのしかかる負担
日本では犯罪被害者が加害者に損害賠償を請求したり、加害者から金銭を受け取ったりすると、「結局は金目当てか」などと非難を浴びることがあります。本当におかしなことです。犯罪の被害に遭うと、被害者はその直接的な被害だけにとどまらず、どれだけ理不尽な経験をするかということが分かれば、そんな心ない言葉を浴びせる人もいなくなるのではないでしょうか。被害者は被害に遭ったあとも経済的、時間的、そして精神的、肉体的に多大な被害を受け続けるのです。
例えば、暴行されて怪我をすれば病院に行きますが、そのための交通費や診察費、薬代がかかります。治療で入院や手術が必要なら、そのためのお金もかかります。会社員なら仕事を休まねばなりませんし、自営の方なら休業しなければならず、その分、収入が減ります。弁護士に依頼すれば、弁護士費用がかかります。
少し話は逸れますが、裁判員制度で裁判員に選ばれた人には、国から交通費も日当(1日あたり1万円以内)も出ますし、裁判員休暇制度を導入している企業のうち約6割が有給休暇を認めています。しかしながら、被害者が自分の裁判に被害者参加する際には、交通費と日当(1日あたり1700円)は出るものの、公の休暇制度はなく、「有給がもうないので被害者参加は諦めます」という人もいるのです。被害者参加制度の対象外の犯罪被害の場合、交通費も日当も出ません。そのため、犯罪被害に遭った人が裁判に参加するための費用の公的給付は絶対に必要なものだと私は考えています。
事情聴取に伴う「大きな精神的苦痛」とその影響
話をもとに戻します。こうした犯罪被害者になることの損失は時間や収入といった物理的な問題だけではありません。事件について警察で行われる事情聴取は、被害者には大きな精神的苦痛を伴い、その影響は計り知れないものです。
例えば、性犯罪での捜査で行われる「被害の再現」。どんな風に襲われたのか、「相手が覆いかぶさった時の右手はここにあって、自分の左足はこの位置で」などと、被害者に見立てた人形を使って犯行の状況を細かく確認する作業があります。
犯罪を立証するためには必要なことではありますが、「襲われた時のことを思い出してしまった」「私はこういう目に遭ったんだと客観的に被害が分かって辛かった」と、被害者にとっては捜査自体が二次被害のようになってしまうことも多いのです。
