2015年、埼玉県熊谷市で起きた凄惨な連続殺人事件。小学生の娘2人と妻、計3人の命を理不尽に奪われた加藤さん(姓のみ公表)は、法廷で「被告人に死刑を求刑します」と自ら声を絞り出した。
一審判決は死刑。しかし、東京高裁が下した判決は「無期懲役」への減刑だった。理由は犯行時の責任能力ではなく、裁判時の訴訟能力──。あまりの不条理に、温厚な加藤さんも検事相手に激昂する。ここでは、同事件の被害者側弁護士を務めた上谷さくら氏の著書『犯罪被害者代理人』(集英社新書)の一部を抜粋。被害者の苦悩について紹介する。
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熊谷連続殺人事件
2021年7月下旬、私は炎暑の中、埼玉県熊谷市のあるお寺にいました。ある殺人事件の被害者遺族の方と共に、警察から戻ってきた被害者の遺品のお焚き上げをしてもらうためです。事件の凄惨さを物語る血に染まったタオル、刃物の傷跡のあるワンピース、靴。ご遺族はどれも家に持ち帰ることができず、お寺のご住職のご厚意で半年ほど預かっていただいていました。全てをご供養してもらおうと思っていたのですが、ご遺族の決心がつかず、この日はタオルなど一部だけを燃やして、衣服や靴は残しました。
遡ること6年前の2015年9月にその凶悪な事件は起きました。埼玉県警熊谷警察署に任意同行され事情聴取を受けていたペルー人のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン(2020年9月、無期懲役で刑が確定。以下「ジョナタン」と言います)が脱走し、3日に及ぶ逃走の間に3世帯に侵入、50代の夫妻、80代の女性、そして40代の女性とその小学5年生・2年生の娘の計6人を次々に殺害しました。
ジョナタンは警察が駆けつけた犯行現場の住宅2階から転落し、意識不明の重体となりましたが、命を取り留め、8か月後に強盗殺人、死体遺棄、住居侵入の容疑で逮捕され、後に起訴されました。
私はこの事件で妻と娘二人の命を奪われた加藤さん(姓のみ公表)の被害者参加弁護士として、刑事裁判に被害者参加した加藤さんと共に闘いました。その後、最初の殺人事件のあとで住民に情報を周知し、注意喚起をしていれば、その後の事件は防げたとして埼玉県を相手取り国家賠償請求訴訟も起こしました。
先に加藤さんの代理人になっていた高橋正人弁護士から「大変な事件だから一緒にやりませんか」と声をかけられたことがきっかけで私も代理人となりました。私自身も亡くなった娘さんと同じ年頃の娘を持つ母親ですので、いてもたってもいられない気持ちですぐさまお引き受けしました。
