加藤さんに何度もお会いして、刑事裁判の準備をしましたが、ほとんど話はせず、表情も乏しかったです。私が何か質問しても、「はい」「いいえ」がほとんどで、具体的なことを聞いても、答えは一言返ってくるかどうか、という感じでした。しっかり者の奥さんと、可愛らしい2人の娘さんと4人で仲睦まじく暮らしていたのが、ある日突然、独りぼっちになってしまったのですから無理もありません。しかも、被害者側に狙われる理由が全くない通り魔的な犯行です。

 ご遺族の事件後の様子は人それぞれですが、どの方も泣いたり怒ったり、時には無口になったり、ということは同じです。その中でも、加藤さんは最も感情が見えない状況でした。

「被告人には死刑を求刑します」

 それでも刑事裁判は始まります。加藤さんは被害者参加したので、その中で少しでも被害回復してほしいと思っていました。

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 しかし、ジョナタンが基本的には黙秘しており、たまに言葉を発しても事件と直接関係ないことや、質問とかみ合わない回答だったりしたことから、加藤さんはますます辛そうな様子でした。

 殺人事件は裁判員裁判なので、裁判員の負担軽減のためにこまめに休廷があります。その間は、被害者参加をしているご遺族も裁判所内や検察庁内に用意された控室で、被害者参加弁護士や支援センターの方と一緒に過ごします。その際、ご遺族とそれまでの法廷でのやりとりについて意見交換したり、法的なことの説明をしたりするので、わりと会話は多いのですが、加藤さんの場合は、本当に「沈黙」という感じでした。

 加藤さんの被害回復のために何ができるのか。重苦しい空気の中、なんとかヒントを探ろうとしましたが、答えは出ませんでした。

 第9回の公判で、加藤さんは、被告人に対して直接被告人質問をしました。ほとんど要望を言わない加藤さんの「どうしても自分で質問したい」というたっての希望でした。弁護人が「被告人には責任能力がない」として無罪を主張している事件ですので、質問事項は事前に検察官とよく検討したうえで、加藤さんは法廷でジョナタンに対し、準備した質問をぶつけました。同じ質問でも「はい」と言ったり「いいえ」と言ったり、相変わらずかみ合わない感じではありましたが、検察官や弁護人が質問した時と少し様子が違って、動揺しているように見えました。

 そして、最終的には否定したのですが、加藤さんの「(傍聴席の三人の遺影の写真は)あなたに殺された三人ですよ?」という問いかけに、ジョナタンは「ああ、殺したんですか」と答えたのです。粘り強く何度も質問を重ねた結果、ジョナタンが殺害を認めるような言葉を発したのは、後にも先にもこの時だけでした。

写真はイメージ ©︎AFLO

 その日の閉廷後、私は初めて加藤さんの柔らかな表情を見ることができました。亡くなった妻と二人の娘のために、自分にできることは精一杯やった、という達成感があったのだと思います。それからは、少しずついろいろな話をしてくれるようになりました。