日本国民に愛されている国技・相撲。しかし、土俵の裏側でどんなことが起きているのか、力士たちがどんな生活を送っているのかを知っている人は、少ないのではないだろうか。
ここでは、相撲界の裏話と感動秘話を綴った朝日新聞記者・抜井規泰氏の著書『白鵬はなぜ嫌われなければならなかったのか だれも知らない角界不思議話』(講談社+α新書)より一部を抜粋。力士の「ちょんまげ」の秘密について紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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伸びる速さには個人差がある「ちょんまげ」
「ゝ」
ちょん。
力士を横から見たまげの形がこの記号に似ていることから、「ちょんまげ」の名がついた。横綱から下っ端まで、普段は全員ちょんまげ姿で暮らしている。十両以上の関取に出世すると、本場所中は後頭部などを膨らませてまげの毛先をイチョウの葉のように広げた「大銀杏」を結う。
角界に飛び込む新弟子の多くは短髪だ。そこから髪を伸ばし、あごの下で髪を結べるようになると、ちょんまげが結えるようになる。
伸びる速さには、個人差がある。人気関取の遠藤(現北陣親方)は遅かった。2013年2月に入門し、初めてちょんまげを結ったのは翌14年5月の夏場所。大銀杏が結えるようになったのは、さらに1年後の15年夏場所。入門から2年以上かかった。
毛の量、太さも、人それぞれ。猫っ毛の元横綱白鵬は、すべて束ねてもボールペン1本ほどの太さしかなかった。一方で、そうめん2束くらいになる力士もいる。
薄毛や切れ毛…まげが結えない力士の対処法
「まげが結えなくなった力士は引退」——。広く知られている話で、一度や二度は聞いたことがあるのではないだろうか。だが、実はこれは完全にデマだ。
脱毛症のため、スキンヘッドで土俵を務め続けた力士もいた。
薄毛でまげが結えなくなる力士も、意外に多い。無免許運転で事故を起こした不祥事で18年に引退したエジプト出身力士の大砂嵐は、薄毛で大銀杏を結えなかった。
そんな場合の対処法が、ちゃんとある。引退した力士が切り落としたまげの先っぽを使うのだ。
力士のまげは髪全体を束ねて後頭部で「元結」という紙のひもで縛り、折り返して、先端部分を頭頂部に載せている。薄毛が進むと、頭頂部に載せる髪が足らなくなる。
そこで、油で固めた長さ10センチほどの「つけまげ」を地毛と一緒に元結で縛りつけ、地毛になじませて頭の上に載せ、関取の象徴であるイチョウの葉のように広がった形を作るのだ。
エストニア出身の元大関把瑠都も大銀杏が結えなかった。把瑠都は薄毛ではなく、くしを通すと極細の金髪が引きちぎれてしまい、大銀杏を結える長さまで髪を伸ばせなかったのだ。やはり、つけまげを使っていた。
