どんな脇役の、つまらない人間であっても、実在するとしか思えない
――嶋津さんの特にお好きな作家さんとして、有吉佐和子さんと幸田文さんがいらっしゃると伺っています。
嶋津 そうですね。幸田文さんは全集を持っていて、全集を入手する前にも、手に入りやすい本は全部読んでいたんですけれども、全集も2周ぐらいは読んでいます。文体にすごく特徴があって独特な表現が……たとえば「料る」なども私は幸田さんの本でしか読んだことがないんですけれども、自分の小説でも使わせていただきました。文体を真似できるというわけではないですが、憧れが滲み出ていると思います。
有吉佐和子さんに関しては、20代の頃に、当時書店で売っていた本はほぼ全て読みました。特に花柳界ものが好きで『香華』とか、『芝桜』『木瓜の花』あたりは、本当に十何回も読み返していて、それがすごく私の栄養になっていると思います。有吉さんはそんなに文体に癖はないんですけれども、でも「有吉節」としか言いようのないような小気味よさと読みやすさがあって。読むたびにもう惚れ惚れするくらい、“あざと上手い”って言うんでしょうかね。
ストーリーだけではなくて人物造形も素晴らしくて、どんな脇役の、つまらない人間として書かれるような人であっても、本当に実在するとしか思えないように生き生きと書かれています。今の私より若い年齢で亡くなられているのが信じられないくらい、若い時期から老成したような……本当に尊敬すべき書き手だと思います。今は『青い壺』がブームになっていて、それを読んでいただいてもわかると思うのですが、有吉さんには実はユーモアのセンスもすごくあって。シリアスな長編でも、くすっと笑わせるところがあるのが大きな魅力の一つだと思うので、そこも見習いたいところです。
――今回の受賞を経て、これからどんな作品を書いていきたいと思われますか。
嶋津 常に、こういうのを書きたいというストックが手持ちゼロなんです。今年、もうすぐ始まる連載もあるんですけれども、それも、担当編集者がこれを聞いたらぞっとするぐらい、本当にちょっとしたことしか考えてなくて。
いつか実在の人物を取り上げた小説を書いてみたい、という構想もあるのですが、難易度は高いと思っているので、だいぶ先の話になりそうです。まずは今、いただいたお仕事を、きちんと自分の満足のいく形、水準に仕上げていきたいと思います。

