部下は失敗から学ぶ機会も、自分で考えて成功させる機会も奪われます。結果として部下のスキルは上がらず、田中さんの「部下は頼りない」という不安が、現実のものとなってしまいます。自分の不安への対処が、皮肉にも部下の成長を阻害し、自分の首を絞める悪循環になっているのです。

では、どうすればこの悪循環から抜け出せるのでしょうか。

不安を手放す「実験」

対策としては、不安を恐れずに手放して、結果どうなるかと見極めること(これを行動実験といいます)が有効です。

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「行動実験(Behavioral Experiment)」とは、自分の持っている不安や信念(例:「任せたら失敗する」)が正しいかどうかを、実際の行動を通して検証してみる手法です。頭の中で考えているだけでなく、あえて不安な状況に身を置いてみるのです。田中さんは次のような行動実験を計画しました。

【実験の仮説】
田中さんの不安:「細かく指示を出さず、部下に任せたら、締め切りに間に合わず、クオリティも崩壊するだろう」

【実験内容】
「1月半ばの締め切りの資料作成について、あえて途中経過のチェックをしない。期限と目的だけを伝え、最終的なアウトプットが出るまで口出しせずに任せてみる」

これは田中さんにとって、非常に勇気のいることでした。「もし失敗したら……」と考えると、喉の奥が詰まるような不安に襲われます。ついつい「順調?」と声をかけたくなりますが、そこをグッと堪えます。不安に暴露されることを恐れていては、管理職の成長はないからです。

実際に田中さんが勇気を出してこの実験を行ってみたところ、驚くべき結果が待っていました。部下たちは最初こそ「部長、本当にいいんですか?」と戸惑っていましたが、次第に「今回は部長が任せてくれている」「自分たちでやるしかない」と気づき、チーム内で相談を始めました。これまでは田中さんの顔色を伺って停止していた思考が、動き始めたのです。