小中高校生にとって、「学校」は生活のほとんどを過ごす場所だ。それだけに、学校の環境は本人の健やかな生活・成長にとって重要といえるだろう。
一方、学校で子どもたちがどのように過ごしているのかという実態は、外部からはなかなか想像がつかないもの。今の学生たちはいったいどのような環境で学校生活を過ごし、どのような悩みを抱えているのだろうか。
ここでは、国内外の中等教育校のスーパーバイザーや教師向けのインストラクターを務め、自身も教壇に立つ林純次氏の著書『学校では学力が伸びない本当の理由』(光文社新書)の一部を抜粋。林氏の経験、そして、さまざまなデータをもとに、近年の学生たちの置かれている状況について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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小学生に増える暴力行為、背景に子供たちの抑鬱傾向
昨今小学校における暴力行為が急増している。
1997年は1432件だったのに、2020年には4万1056件と約29倍だ。対教師、生徒間、器物損壊のいずれも増加しているのだが、生徒間が3万548件(全暴力行為事案の74.4%)と群を抜いている(*1)。
*1 文部科学省初等中等教育局児童生徒課「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」
かつては「雨降って地固まる」と子供の喧嘩もある部分では許容されてきたが、現在の生徒間暴力が生徒の精神を成長させる「雨」になっているのかどうか疑わしいと思っている。なぜなら、こういった行動を起こす生徒に抑鬱傾向が見られることがあるからだ。
抑鬱傾向のある小学生がどの程度いるかを調査した研究がある。2012年12月から2013年1月に近畿地方で3473人の児童と教員116人を対象に行われた同研究の結果は、全体の8.4%、男子の9.0%、女子の7.8%に抑鬱傾向が見られるというものだった(*2)。
*2 周防美智子「小学生の問題行動と抑うつ状態の関連」(2016)
抑鬱傾向の児童とそうではない児童を比べると、前者は「行動が年齢より幼い」(42.6%:後者は26・4%)、「やってはいけないことをしても悪いと思わない」(28.5%:後者は16.4%)、「座っていられない、落ち着きがない」(26.8%:後者は17.1%)、「暴言や暴力がある」(26.1%:後者は13.9%)、「休み時間に友人の交流がない」(19.7%:後者は5.3%)、「学習意欲がない」(16.5%:後者は5.7%)、「学校生活全般に元気がない」(8.9%:後者は2.0%)、「物を壊す」(8.9%:後者は5.0%)という8項目で、後者を上回っている。
今まで、小学生の抑鬱傾向について調べた適切なデータがないので、経年比較はできないのだが、教員仲間の話を聞いていても私自身の体感でも、精神的に不安定な子が増加していることは間違いないと言えるだろう。