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家庭環境、受験のストレスなども暴力行為の要因に

 とはいえ、これが中1の生徒間暴力の全てを説明するものとは思えない。

 小中高生一般の暴力行為について、家庭の経済的不安定さや兄弟姉妹の不在、不適切な養育環境や受験のストレスなど様々な事案が原因だと文部科学省は示唆している。「最近の児童生徒の傾向として、感情を抑えられず、考えや気持ちを言葉でうまく伝えたり人の話を聞いたりする能力が低下していることなどが挙げられ」(*5)るという。

*5 文部科学省「暴力行為のない学校づくりについて(報告書)(2022/1/15閲覧)

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 その通りなのだ。小学生時点で幼く不安定な傾向を持っていて、それが中学生になったから急に解消されることなど期待できない。むしろ、制服と校則と学業に縛られ、身動きが取れなくなってしまう子が多数いるというのが正当な見方ではなかろうか。

大人が大人にならなくてはならない

 この状態に対して、かつて中学生だった大人たちは「甘えだ」「昔もあった」「5月病だろう」と勝手な理解をし、力まかせの決着を付けようとする。

 それは間違っている。

 今の子供の幼さや不安定さを築き上げているのは、我々大人が与えたゲノムと環境なのである。これをわかった上で、彼らに最適な指導を与えるしかないと私は思う。

 小中連携やカウンセラーとかを配置するというやり方、個々の生徒のカルテを作って真摯に向き合うことを求めるやり方がさも正答のように提示されるが、まずやらなければならないのは親の意識改革であり、次に教員のそれではないか。子供の近いところにいる大人がしっかりと彼らの状態と未来を考え、優先順位付けを行えば、今のような幼稚さや精神的不安定さを生み出す制度にはならなかったと言えまいか。

「子供が子供を育てている状態」は脱するべきだ。大人が大人にならなくてはいけない。そうでなくては、苦しむ子供が減らないのだ。

 きちんと考えている親は、人間を鋳型に嵌めるような制度や学校は選択しなくなっているし、きちんと考えている教師は、現行制度の善し悪しを正確に見極め、より良い教育実践をしているものだ。

 自分のクラスで授業を壊す行為をしたり、ひいては暴力事件を起こす者がいたりすると、安心して学習には取り組めない。学級会が開かれたり、強制的に話し合いの機会が設けられたりもするが、生徒から見て納得のいく決着になることは少ない。よっぽど実力のある教師でなければ生徒の合意は勝ち取れない。

 なぜなら、教師に捜査権がないのはもちろんのこと、科学的証明や蓋然性の証明を行う方法を知らないからだ。また、多くの生徒にとってはその事件自体が自分に関係のない事案であり、どうでもいいことだからだ。