「上手に取り乱せちょるよ」涙を誘ったサワの名場面

 生家の雨清水家から、子どもがいなかった親戚の松野家に養女として引き取られたトキ。育ての父と母はそのことを彼女に秘密にしていたが、本人は気づいていた。そのため、産みの父が亡くなった後、トキは一人きりで辛い感情を発散しようとするが、うまくできない。

 そこに事情を知ってか、サワがトキのもとへ。「どげして? どげして、こげな時にいつもおるの?」と聞かれ、「どげしてだろうねぇ」と普段と変わらぬテンションで返すサワ。肩を抱くでも背をさするでもなく、後ろで待機し、トキが「取り乱したいんだけど、取り乱し方が分からんの」と言い、泣き崩れるとすかさず抱きとめる。

 そして「上手に取り乱せちょるよ。上手、上手……」と、トキの背中をポンポンと叩くシーンは本作屈指の名場面だ。円井の芝居は絶大な安定感があるのはもちろんのこと、どんな球も受け止めてくれそうな懐の深さを感じさせる。見ているだけでホッとし、自分の大切な友達に会いたくなるのは、きっと筆者だけではあるまい。

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『ばけばけ』公式Instagramより

『ばけばけ』ヒロインの“第2候補”だった円井わん

 円井が朝ドラに出演するのは、映画化で話題となっている『虎に翼』に続いて2度目となる。『虎に翼』には、ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)の部下にあたる家庭裁判所調査官の音羽役で終盤から登場。厳格な女性でほとんど感情を見せない役どころだったが、仕事熱心で、不器用ながらも異なる意見に耳を傾けようとする音羽の人柄を、円井が微々たる表情の変化で巧みに伝えていた。

『ばけばけ』には当初、ヒロインオーディションに参加。最終選考まで進み、ヒロインは逃すも親友役でオファーを受けた。制作統括の橋爪國臣は、起用理由について「オーディションでは最終選考まで残っていただいて、ヒロインの次点には、円井さんの名前を書いて局に提出しました。それくらい芝居が素晴らしくて、今回はヒロインに一番近い立ち位置のキャラクターをお願いすることにしました」(※1)とコメント。以前から円井の演技に惚れ込んでいたチーフディレクター・村橋直樹の強い推薦もあったという。

 円井は高校卒業を機に、役者を目指して地元の大阪から上京。『コントラ KONTORA』(2021年、アンシュル・チョウハン監督)や『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022年、竹林亮監督)をはじめとする多くのインディーズ映画で爪痕を残し、ドラマや商業映画に活動の幅を広げてきた。2024年は飛躍の年で、先述した『虎に翼』に加え、ユーキャン新語・流行語大賞に「ふてほど」のワードで選ばれた『不適切にもほどがある!』(TBS系)でもゲスト出演ながらインパクトを残している。