12月26日に2025年内最後となる第65回を放送し、物語の前半を終えた連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合)。65回のラストシーンは朝ドラ史に残る名場面だった。

 夕日が沈む宍道湖のほとりを、トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)が楽しそうに話しながら散歩している。カメラはふたりの姿を遠くから捉えて、トキとヘブンの小さな影だけを映している。ふたりの声は聴こえないが、トキとヘブンの身体が楽しそうに弾んでいる。ヘブンが手をつなごうと差し出す。首を振ってためらうトキ。手を取るヘブン。

髙石あかりとトミー・バストウ ©時事通信社

 前半が主題歌と重なってはいるものの、台詞が何もないまま約1分半続くシーンだった。こんなシーンはおそらく朝ドラ史上初だろうし、『ばけばけ』が3カ月間実践してきた、台詞に頼らないノンバーバル(非言語)な表現の集大成といった感がある。

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 『ばけばけ』は、いちばん大事なことを言葉で言わない。言ったとしても、言葉はあくまでも何気ない日常の口語として、あるいは心のコップが感情の水でいっぱいになったときにポロッとこぼれた一しずくのように小さく表出する。

「ご一緒してもええでしょうか」「はい」

 たとえば、トキがヘブンに怪談を語り始めた第12週から、銀二郎(寛一郎)とイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)が松江にやってくる第13週にかけて。トキとヘブンが、知らず知らずのうちに心の中で大きくなっていたお互いへの気持ちと、「この人といっしょにいたい」という本当の欲求に気づくターンで、ふたりは一切直接的な台詞を言っていない。

 「好きです」とか「愛しています」とか、「やっぱり私にはあなたなのです」とか「今やっとそれに気がつきました」とか。そういう言葉は一度も口に出さずに、トキとヘブンの行動、表情、しぐさ、間、声のトーンが心情を雄弁に物語っていた。

「神シーン」とSNSで賞賛された海辺の2人

 心のコップからこぼれた「一しずく」が、物語前半のトキとヘブンの最後の台詞「(散歩に)ご一緒してもええでしょうか」「はい」という、至極シンプルで短い台詞だった。

 本作のチーフ演出・村橋直樹氏はインタビューで、「『ながら見』の役割はテレビドラマが担うものではなくなっていくと、僕は思っています」「脚本打ち(合わせ)をするなかでも、『大丈夫です。視聴者に伝わりますよ』というやりとりをその都度繰り返しながら、ノンバーバルな部分を意識的に調整しています」と語っている。