ひとつの出来事に対する受け取り方がそれぞれ違うように、人の感情や思いも単純ではない。笑っているようで泣いている、怒っているようで愛している、身を引きながら激しく焦がれているーー。ひと時のうちに何万通りとある、何色も混じり合った人間の感情を、『ばけばけ』は台詞ではないところで表現している。
そんな作劇に応え、計り知れない数の引き出しで表現している髙石あかりとトミー・バストウの演技に唸るばかりだ。13週で再登場した寛一郎とシャーロット・ケイト・フォックスの妙演にも舌を巻いた。
「日本って面白いわね。こんな薄い紙一つで部屋を仕切るなんて」
第65回で、ヘブンの気持ちを悟ってしまったイライザが、悲しみとやるせなさをどこにぶつけていいのかわからず、同じ「想い人が他の人を好いている」という立場にある銀二郎に、涙声で雑談をもちかけながら部屋に入ってくるときの台詞が白眉だった。
「日本って面白いわね。こんな薄い紙一つで部屋を仕切るなんて」
この短い台詞が、イライザと、日本文化に調和し、松江に残ろうとしているヘブンの進む道の違い、ふたりの「分かち合えなさ」をさりげなくも残酷に言い表している。
セメントや煉瓦の分厚い壁で仕切られた西洋の建築様式は、個人主義の発達と深く関係している。一方、襖や障子で仕切られ、隣室にいる人の「気配」を感じる日本建築は、調和を重んじる日本人の精神構造に大きく関与している。これは比較文化学や比較社会学の分野でたびたび語られてきた言説だ。「雑談」の体をなしながら、人物の心情のみならず、本作のテーマにも触れる事柄を仕込んでくる脚本がまたニクい。
前半最後の週となった第13週「サンポ、シマショウカ。」は、トキとヘブンの一方にとっては重要人物であり、一方にとっては“ライバル”である銀二郎とイライザを投入し、ふたりに本当の気持ちを気づかせる……という、至ってわかりやすい王道の筋立てだ。
しかしながら、台詞以外のところで微細に表現された4人の心模様が圧巻だった。まさに言外の表情が豊かで「想像がふくらむドラマ」の真骨頂といえる。
年明けから始まる新章では、トキとヘブン、松野家・雨清水家の人々の心模様がどう描かれるのだろうか。画面から目を離さずに視聴したい。



