ノートには雇用側の注意事項も…

 ちなみに順達園区で発見されたノートや書類には、労働者(=詐欺師)に言い渡された雇用側の注意事項も存在する。中国語の他に英語のものもあり、おそらく英文盤(インウェンパン)(英語圏対象の特殊詐欺)に従事するアフリカや南アジア出身の詐欺師に向けて書かれているのだろう。そのルールは恐ろしい。

無断欠勤: 罰金50ドル。
スマホ管理: 業務時間外の仕事用スマホの持ち出しは罰金100ドル。
生活規律:不潔な場合は罰金100ドル。
勤務態度:足を組む、貧乏ゆすりは罰金50ドル。居眠り厳禁、眠い場合は立って働け。

 もっとも、これらの懲罰は序の口だ。より重い罰、すなわち、それまで支払った給料を全額没収したうえで解雇される(=ミャンマーの極悪軍閥の支配地に無一文で放り出される)のは以下のような行為である。

・会社(=詐欺集団)についてネガティブな情報を広める行為
・顧客(=詐欺ターゲット)とのチャット履歴の削除、私的な連絡先の追加、顧客からの借金、資産の横領。
・園区内での写真・動画撮影。
・無断欠勤を3回繰り返す。

※なお、契約期間内の自主退職、または能力不足による解雇の場合、渡航費・食費・寮費はすべて自己負担とする(注:中国のこの手の職場は食事や住居を会社側が提供することが多い)。

 いっぽう、園区の労働者たちのノートを読むと、(目的の半分は詐欺ターゲット向けとは言え)自分を向上させるための意識の高い言葉が何度も書きつけられており、運営者側から労働者に対する事実上の「洗脳」がおこなわれていたことも読み取れる。詐欺という言葉をビジネスと言い換え、自己の成長と将来の成功を信じさせて働かせていたようだ。

ADVERTISEMENT

園区内で発見された中国語の書籍。なんとカーネギーの著書だ。筆者撮影。

 ところで、中国では民間の行動と政府の行動が連携しやすく、一部の詐欺園区の運営者は、人民解放軍や公安との関係も囁かれている。今後、たとえば有事の際に園区の詐欺ノウハウが認知戦(対象国の世論操作)や、特定の要人をターゲットにした情報摂取に利用されることも、個人的には懸念したいところだ。事実、欧州ではビジネスSNSのLinkedInを使って、中国系の架空美女アカウントが政治家などに接近している事例が報告されている。

 私たちの資産を防衛するうえでも、社会を守るうえでも、今回発見された園区ノートはなかなか重要な文献だと言えそうなのである。

最初から記事を読む 「まるでカイジの地下労働施設」ボーナス支給に使われた“独自の紙幣”も…ミャンマー“特殊詐欺拠点”へ潜入した男が明かす「想像を絶する内情」