『どうすればよかったか?』の問いに対する“正解”

――『どうすればよかったか?』の問いに対して、“正解”を求めるならば、「もっと早く病院に連れていけばよかった」との答えになります。しかし、どんな問題であっても、当事者は、その人が抱える事情や、その人を取り巻く人間関係の影響を受けるものです。本の帯にある「ままならなさ」とは、そのようなものではないか。本書の読後感としてそんなふうに思いました。

藤野 私自身は、1980年代の精神科病院のあり方や治療法に問題があったにせよ、早く病院に連れていくべきだという考えでいます。姉は2008年になって、ようやく治療を受けるわけですが、その時に効果のあった向精神薬は、実は1996年に認可されています。姉が統合失調症を発症した83年には、効果的な薬は確かになかったけれども、医療につながっていれば、12年早くその向精神薬と出会うことはできたはずです。

 今回の書籍をつくる際にも、いろいろと考えました。1992年のことですが、私は家族の悩みを抱え、大学を留年もして、精神的にまいっていました。それで大学の相談室に行ったところ、カウンセラーに家族療法を勧められた。結局は、父がそれを拒否するのですが、あの時、もっとしっかりと両親と話し合っていれば、姉は医療とつながることができたかもしれない。もしそうなっていれば、1996年には効果のある薬を服用することができたかもしれない。そうしたら、姉には別の未来があったかもしれません。

ADVERTISEMENT

藤野知明さん ©佐藤亘/文藝春秋

閉じ込めるのは誰のためなのか?

――最後になりますが、書籍『どうすればよかったか?』の発売にあたって思うところは?

藤野 書籍では、映画では表現できなかったこと、たとえば1980年代の精神医療の実態や認識、統合失調症の患者に対する社会のスティグマ、収容主義が、私たち当事者や家族に影を落としていること、そして、そうしたことが父や母の判断に影響を及ぼしていたかもしれないということも書きました。

 統合失調症になると、その人の時間や可能性を少し失うかもしれません。でも今の日本社会では、病気以外の人為的な要因でそれ以上のものを失うことになる。長期入院で帰る場所が無くなる人もいると聞きます。閉じ込めるのは誰のためなのか? 考えてみてほしいです。この映画や書籍がそうしたことのきっかけになればと思っています。

どうすればよかったか?

藤野 知明

文藝春秋

2026年1月29日 発売

最初から記事を読む 「普通の家庭だったけれども、それでも姉は統合失調症になった」『どうすればよかったか?』監督(59)が“家族の秘密”を映画にするまで

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。