弟子に見る夢
増田が「才能よりもプロになってからの努力が大きい」と話したのには、唸らされました。少年時代の努力も大事だけれども、やっぱりプロになってからの時間の方が大きな意味を持つというは、なるほど、その通りだと思います。
前回の「師弟」の取材から、もう8年も経ちましたか。増田は将棋で壁に当たり、結婚をして、人間的にも随分成長したと思います。ただ棋士というのは、それがいいのかどうか、難しいところもありまして。10歳の増田は、15歳の増田とは違ったように。
彼が中学1年の頃に、どこか将棋一本ではないように感じました。何を迷っているのかと思ったのですが、それは増田なりの感性があってのことだったのでしょう。私は彼が入門した頃から、自分の持てるものはすべて伝えてきたつもりですが、適性や考え方は成長と共に変わっていきます。それをどう受け止めて活用していくかは、その時の本人の考え方次第になります。
私は10歳の増田を見たときに、羽生さんの後を継ぐのはこの少年以外にいないと思いました。それまで3人弟子を取りましたが、奨励会という厳しい世界で去っていき、もう弟子を取るつもりはなかった。でも八王子将棋クラブの八木下征男さんから増田の棋譜を送ってもらったときに、こんな凄い少年がいるのかと驚かされたのです。
本来なら今の藤井君の位置に、増田がいても、私は何の不思議もありません。増田ならできなくはないと思いますね。ただ、藤井君は迷うことなくここまで歩んできた。増田はもう28歳になっているので、それをどうやって今から押し返していくか。本気でタイトルを狙うならば大きなテーマなんじゃないでしょうか。
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2025年3月11日、森下はデビュー以来の公式戦通算1000勝を達成した。史上12人目の偉業であり、タイトル無冠の棋士では初めてのことだった。大きな会場での祝いの会は行わず、親しい者たちが集まっての会が都内で2度開かれた。増田はそのどちらにも出席し、ベネチアン・グラスを記念に贈った。婚約者と行ったイタリア旅行で、二人で師匠のために選んだものだった。森下はそのグラスにウイスキーを注ぐことを楽しみにしている。
写真=野澤亘伸
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