巨匠スタンリー・キューブリックとの挑戦
オスカーノミネーションで、人気と共に実力もお墨付きを貰ったトム・クルーズのその後の作品選びは、実力派の大物監督ばかりになっていく。ロブ・ライナー、シドニー・ポラック、キャメロン・クロウを経て、30代後半に彼が挑んだのはスタンリー・キューブリックだった。
結果的にキューブリックの遺作となる『アイズ ワイド シャット』は、当時の妻だったニコール・キッドマンとの3度目の共演作で、撮影に丸1年以上も費やすことになる。キューブリックは自作の主演俳優を誰にするか、こだわりが強い監督だったが、トム・クルーズについては『卒業白書』の時から注目していたらしい。
『アイズ ワイド シャット』の出演を決めた1996年のクルーズは既に、作品をオファーされた際に監督や共演者を自分の意思で替えることが出来るほどのスターであったが、キューブリックはそういう余地のない監督である。
憧れの監督キューブリックと映画を作れるという夢のような話に、クルーズはすぐに飛びついた。取材嫌いで有名なキューブリックは、公の場でしゃべっている映像がほとんどない。記者会見でクルーズについて語る映像などは皆無だ。キューブリック作品の内容は極秘のまま製作が進められ、クルーズもキッドマンもこの作品について語ることは禁じられていた。
作品は撮影だけで丸1年以上、前後も入れると公開まで3年かかって完成されたが、その間、クルーズ夫妻は監督の指示をきちんと守り、全て監督のやり方に従って撮影に挑んだ。世界で一番バンカブル(お金になる)なスターだったクルーズが静かに従うほど、キューブリックはクルーズにとって偉大な監督だったのだ。
