96年の『ザ・エージェント』から『アイズ ワイド シャット』公開の99年まで、クルーズは他の作品を撮っていない。『アイズ ワイド シャット』撮了後のポスプロ期間に『マグノリア』に出演した以外は、すべてをキューブリックにゆだねていたと言っても過言ではない。

70回もテイクを要求されたが…

 キューブリックは撮影時、納得が行くまでとことん何度も繰り返し撮る監督らしく、クルーズは場面によっては70回もテイクを要求されたことがあるという。クルーズはそれに対し、文句も言わず従った。

 自身映画監督でこの作品の共演者であるシドニー・ポラックは、何度も同じ演技を要求されるクルーズに同情した。もっとも、同じ作品でキッドマンは「300テイクくらいした」と語り、ジャック・ニコルソン、マシュー・モディーンなど過去のキューブリック作品主演俳優もみな、キューブリック監督の多数テイクを受け入れた逸話が伝えられているところを見ると、技術のみならず忍耐力や強い精神力など、一流の俳優でなくては成立しないのがキューブリックの現場という事だろう。

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 キューブリックが急逝した後にいろいろな所で彼について語るクルーズを見る限り、キューブリックとは個人的にも良い関係を築いたようで、彼もキッドマンも、キューブリックの死には相当ショックを受けたようだ。そして、この作品への出演を境に、クルーズの監督選びが次第に変わっていったように思う。