能登取材での忘れられない光景

 厳冬期に水道、電気、ガス、すべてのインフラを絶たれたこの町に、自衛隊の災害派遣部隊が住民を避難誘導するため駆けつけた。休耕田を臨時のヘリポートとし、天候が回復した一瞬を突いて、一気に全住民を避難させる。そんな困難と緊張を強いられる任務である。

 ある住民は家族同様だからと、ペットを抱いたまま、あるお年寄りは両手に紙袋をかかえ、徒歩で臨時ヘリポートに向かっていく。自衛隊員もお年寄りの手を取り、ある隊員は住民が持ちきれない荷物やペットを抱える。しかも極寒の気温下、積雪でつるつるの舗装もされてない、急勾配の畦道を伝って、ローター回りっぱなしのヘリまで急ぐのである。

 そんな現場で場違いなOD(濃緑)色のごそごそ動きまわる異物。それこそが「ヴィジョン60」だったのである。こないな緊張感丸出しで、バリバリの「有事」の現場に、ユーモラスにも見えるシュールな光景であった。

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 この4本足歩行犬型ロボットは、オペレーターの陸自隊員や避難民とともに荷物を背に健気によちよち歩いてきては、ツルツルの路面と急勾配に足下をすくわれ、何度もころんでいた。足下もよく見ればアイゼンを履いてるわけでもなく、深い溝は切ってあるものの、円形のままである。

 ある記事によれば、この時の「ヴィジョン60」は開発者の期待を背負い「やまと号」と名付けられていたらしい。

 有事の現場で初陣を飾るつもりであった……のかは知らんが、不整地や瓦礫だらけの被災地や戦場でどれほど役に立つのか、不安に駆られるような場面であった。もちろんあれから2年、この日の「ヴィジョン60」は格段に進化したと思われる。

中国製の2本足人型ロボと比較すれば不安が募るが…

 1944年6月5日、「史上最大の作戦」と言われたノルマンディー上陸作戦の前夜、連合軍は空挺隊員を模した人形を海岸沿いの内陸部に大量に落下傘降下させた。もちろんAI(人工知能)など夢にも見なかった時代である。

 このダミー落下傘兵は着地と同時に爆竹が破裂するという単純な構造であったが、この地を占領していたドイツ軍をおおいに混乱させ、上陸作戦成功の一助となったのである。いわば空挺部隊による人類史上初の「ロボット降下作戦」である。

 

 それから80年以上の時を経て、今回のひっくり返った「ヴィジョン60」。中国製の2本足人型ロボと比較すれば不安が募るが、今や陸海空と部隊を問わず、戦場はドローンとロボットにより支配されるようになり、その優劣と数で戦況が左右されるようになったのはウクライナの戦いを見てもあきらかである。

 ここ40年、世界中の紛争地を渡り歩いてきた不肖・宮嶋も、時代が変わったことを自覚すべき時であろう。