「俺自身、あの時は狂っていた」「銀行もどうにでもなった」

 当時、青森県住宅供給公社で経理を担当していた千田郁司氏が14億円超を横領し、その多くをチリ人の妻であるアニータ・アルバラードに送金した「アニータ事件」。当の千田氏は、横領をしていた時期をこう振り返る。

 青森県住宅供給公社は要職を天下りが占めていたといい、千田氏のようなプロパー社員の大半は係長止まり。そんな中、どのようにして大金を横領したのか。朝日新聞の坂本泰紀記者が、千田氏の証言を基にまとめた書籍『アニータの夫』(柏書房)からお届けする。(全5回の5回目/最初から読む

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2007年2月、千田氏のいる山形刑務所を訪問したアニータ。しかし2人の再会はかなわず、差し入れとして3000円を置いていったという(朝日新聞撮影)

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「係長止まり」だった職員が大金を動かせたワケ

 公社には、宅地を造成するための口座とか住宅建設の口座とか、いろいろな事業の銀行口座があった。職員の給料や旅費を払う事務費の口座もあって、宅地造成の口座から旅費とか人件費分を事務費の口座に振り替えて、庶務担当が旅費や給料を支払っていた。

 この財源の振り替えは、俺の仕事だったんです。こっちの口座からこっちの口座ってやる時に横領していたんだよね。たとえば、宅地造成の口座の通帳の払い出し伝票に2000万円って書いて、事務費の口座の入金伝票に2000万円って書いて、両方、公社の届け出印をもらう。

 自分で押していた時もあったし、上司に押してもらった時もあったけど、まあ上司は見ないし聞かないから、一緒だったけどね。それで入金伝票は捨てて、払い出し伝票だけ銀行に持っていく。