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 彩のかがやきに続く候補を、約300にまで絞った07年、熊谷を猛暑が襲った。あの40.9度を記録した夏である。

 開発の中心になっていた担当部長の荒川誠さん(49)は驚いた。

 収穫した米に、白く濁った粒が続々と見つかったからだ。

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「それまで、ほとんど見たことがありませんでした」

 白未熟(しろみじゅく)粒という高温障害だった。稲は光合成でデンプンを作り、米粒に貯める。デンプンがきれいに詰まると半透明になる。しかし高温になり過ぎるとデンプンがきちんと生成できず、米粒がスカスカになって白く濁ってしまう。

 育成中だった約300の新品種候補は、壊滅状態だった。

 ところが、その中に一つだけ白未熟粒にならなかった候補があった。荒川部長らはこれを新品種にしようと決めた。後の彩のきずなである。

 奇跡的に残った米は素晴らしい形質を持っていた。

 そもそも病害虫に強い種を交配したので、減農薬に適している。もちもち感があって、食味はコシヒカリ並みだ。収量も多い。稈長(かんちょう)(地面から穂までの背丈)は短く、倒れにくくて作りやすい。

 しかし、当時はまだ温暖化対策の切り札になるとまでは考えられていなかった。埼玉県内でもこの年、農業技術研究センター以外では、米の高温障害が発生しなかったからだ。

白未熟粒を発生させるのは一日の最高気温の高さではない。稲穂が出た後、20日間の平均気温が26〜27度を超えると増える。

灼熱のまちを山車や屋台が巡行する熊谷うちわ祭

 熊谷は麦との二毛作地帯だ。麦を収穫した後に稲を植えるから、作付けが遅くなる。稲穂が出るのは盆を過ぎる。その頃には気温が下がり始めるので、かろうじて高温障害を免れていた。県内の他地域もそこまで暑さが続かなかった。

 だが、二毛作を行わない農業技術研究センターでは、ちょうど暑い盛りに稲穂が出た。 

「日本一暑いまち」で開発したから、温暖化する日本の将来を先取りするような種が選べたのだった。