文春オンライン

危機の大塚家具 「親バカ親父」と「エリート娘」の“リア王的悲劇”のゆくえ

それは同族企業の運命なのか――

2018/08/11
note

春日部から日本橋をリアカーで行き来する超人

 その争いの最中、父・大塚勝久は全社員に送ったメールでこう述べる。「血と汗で築いてきた大塚家具が久美子社長のクーデターで崩壊しつつあります」(注2)。春日部の桐ダンス職人の家に生まれ、しかし職人にならずに販売に力をいれていく。そうして今の大塚家具の礎を築くのだが、若き日にはタンスを積んだリヤカーを引いていたのは知られる話。少し前の週刊文春を紐解くと、昔を知る者の証言にこうある。

「勝久さんと親父さんは毎日リアカーに箪笥を積んで、春日部から日本橋まで往復約八十キロの距離を百貨店に納めに行っていました」(注3)。

 なるほど「血と汗で築いてきた」に嘘はない。というより、春日部から日本橋をリヤカーで行き来していたとなると、苦労話を通り越して、超人的な肉体の持ち主の話に思えてくる。しかも親子で。

ADVERTISEMENT

大塚久美子 ©AFLO

「情」より「理」のほうが今風のように思えたが

 対する娘・久美子はどうか。一橋大学から女性初の総合職として旧富士銀行に入行し、その後に父の会社に入ってきたエリートである。

 この対照的な父娘の対立騒動を描いた書物に、磯山友幸『「理」と「情」の狭間』(日経BP社 2016年)がある。自分がつくった会社なのに娘が追い出そうとしていると「情」で訴えた父と、会社は公器であるとし、上場企業としてのコーポレート・ガバナンスのあり方という「理」を問うた娘の、情と理だ。

 圧勝した娘は父親の販売戦略を古いものとして否定し、カジュアルな雰囲気の店作りを推し進める。「情」より「理」のほうが今風で、「理」のひとによる経営はうまくいきそうであるが、現実は売上を減らし続けて、ついには身売り話が浮上するにいたる。