アメリカはなぜ軍事費負担を日本にさせようとするのか? アメリカ外交問題評議会のグローバルボードメンバーを務める新浪剛史氏が論じます。サントリーホールディングス社長というビジネスマンとして、また、日本経済の指針を議論する経済財政諮問会議メンバーとして考える「経済外交」日本の進む道とは?
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防衛装備品を買うことが対日貿易赤字の解消につながる?
――現在、日米関係は良好であると言われています。ただ、その一方で、アメリカの膨張する軍事費の一部を日本に負担させようとする動きもあります。この点はどのように考えればいいでしょうか。
新浪 表面的には自国を守るために資金を負担しろということです。これは日本だけでなく、NATOでも同じことが要求されています。アメリカはかつてのように「世界の警察官」として振る舞うことができなくなった。単独でそのコストを維持できなくなったのです。
とくにトランプ大統領の支持層が多い「ラストベルト」では、社会保障や賃金に大きな不満を持っており、彼らにとっては他の国々を守るよりも、まずは生活をサポートしてもらいたい。つまり米国には友好国を守る余裕がなくなっているのです。
そこで問題となるのは、アメリカの対日貿易赤字が7兆円あることです。トランプ大統領は、これを修正するためにもアメリカから防衛装備を買ってほしい。実はそうしたメッセージを裏で流しているのです。
ただ、日本の対米投資がもたらす米国からの輸出が何と10兆円あることも忘れてはなりません。これを合わせると、実はアメリカは3兆円の黒字なのです。しかし、トランプ大統領はバイラテラル(相対)のトレードだけで議論してしまう。トランプ氏はかつての1970年代の日米通商摩擦の感覚のままでいるのかもしれません。今は中国が標的になっていますが、日本もアメリカの友好国なら同調しろということなのです。ただ、全部アメリカから買ってしまうと、日本の防衛産業にも影響が出てくるはずです。