風俗業界において、写真は単なる紹介画像ではない。「電話が鳴る(=予約が入る)」か否か、一枚の写真が店の売り上げ、女性の人生を左右する。

 それだけに写真に求められる基準は高くなる。現役のカメラマンはどのような考え、技術をもって日々の仕事に臨んでいるのか。ここではフリーライターの山田厚俊氏による『風俗カメラマン 「姫」を輝かせる者たちの世界』(草思社)の一部を抜粋。

 バンドマン、ホスト、街金……さまざまな職業を経て、風俗カメラマンになった男性、酒井よし彦氏のエピソードを紹介する。

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酒井よし彦氏

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何かにつけ、すぐ怒鳴る人が多かった。

 東京に戻り、あるセミナーでアルバイトをしていた時、樹水駿と出会う。樹水写真事務所という写真スタジオの社長であり、風俗雑誌も発行する出版社の社長でもあった樹水の事務所に、営業職として入社することとなった。

 仕事の内容は、風俗誌に関するものだった。たとえば、ゲラができると風俗店に持って行き確認してもらうといったことだ。現在のようにメールでやり取りする時代ではない。ファクシミリだと写真の出来不出来が分からない。担当者が直接持って行き、その場で確認作業をしてもらうといった具合だった。

「当時、風俗誌の営業担当者の定着率はすごく悪かった。というのも、多くの風俗店の店員が怖い時代だったからです。何かにつけ、『忙しい時に来やがって』と、すぐ怒鳴る人が多かった。

 でも僕は元々、そんな怖い人たちの世界に身を置いていたから、全く平気なわけです。すると、次第に店員さんたちの呼吸というか、お店の流れも分かってきて、打ち解けるようになったんです」

 “業界コミュ力”が高かったということだろう。店舗との信頼関係を築き、風俗業界のことも学ぶにつれ、店側にいろいろと企画を提案し始めた。たとえば、繁忙期の12月には「他店では例年こんな企画が出ますが、こちらではこれを逆手に取ってこんな感じでやってみてはいかがですか」とか。

 店舗側から信頼を得る一方、酒井は“店舗代理人”の如く編集やカメラマンに口を出すようになっていく。それが樹水の逆鱗に触れた。