梶芽衣子は『寺内貫太郎一家』に出演する前、向田邦子の自宅に招かれ鍋を共にしたという。そこで話されたことは……。「文藝春秋」より抜粋し、その日の出来事をご紹介する。(初出・「文藝春秋」2023年1月新年特大号)
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昭和を代表する脚本家、名エッセイスト、直木賞作家の向田邦子(1929〜1981)。国民的人気ドラマ『寺内貫太郎一家』で長女・静江を演じた梶芽衣子氏は当初、出演を断っていた――。
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あの頃は映画『女囚さそり』シリーズがブームになった直後でしたから、ダークな役のイメージが定着していた私にホームドラマは馴染まないだろうなと。そんな折、向田先生から青山のご自宅マンションにお招きいただいたんです。
先生が「誰でも出来んのよ」と言って振舞ってくれた夕食が、豚しゃぶ(鍋)でした。昆布と鰹で出汁をとり、そこにニンニクひとかけらを半分に割って芽を取ったものを入れ、煮立ってきたら日本酒をコップ一杯入れる。お野菜はきのこ類をたくさん入れるのがおすすめです。
先生は「牛肉ばかり食べたらだめよ。身体にもいいんだから豚にしなさい」と言う。食べてみたら本当にその通り。塩分控えめのポン酢に万能ネギをたっぷり入れて食べる豚しゃぶは絶品。〆のラーメンでスープを全部飲み干しちゃいました。簡単、高価な牛肉と比べたら豚肉は経済的、そして無駄がない。もう最高!
ドラマ出演について「どうしても出て欲しい」というような押し付けがましさがなく、「まぁやってみるのがいいんじゃない」と自然な感じ。豚しゃぶですっかり気持ちがほぐれ、先生の飾らない人柄に惹かれ、出演をお受けしようと思いましたね。
ドラマがはじまってしばらくして青山のスーパーマーケットで先生と遭遇すると、「あなたが出てくださって嬉しい。しーちゃん(静江の愛称)、とっても良いと思うわ」と声をかけてくださいました。
静江は幼い頃、お父さんの不注意で足に障害を負う。あまり露骨に足を引きずると、周りに気を遣わせてしまうし、何よりお父さんを傷つけてしまう。静江の役柄と向き合い、足の引きずり方を自分なりに研究しました。「先生、足の感じはどうですか?」と聞いてみると、「あれが良いと思ってんのよ!」って。最高の誉め言葉にホッとしました。






