急激な円安の原因は何か?

 成田 もう一点、最近の急激な円安の原因の一つが黒田異次元緩和ではないかという批判がありますね。

成田氏 Ⓒ文藝春秋

 黒田 それは全然関係ないですよ。だって、異次元緩和は2023年まで。私が退任した後、2024年からは、植田(和男)日銀総裁の下で金融政策の正常化、つまり段階的な利上げが始まっているわけですから。春闘の賃上げ率が33年ぶりに5%を超え、賃金上昇が本格化したことで、賃金と物価の好循環が確認できたからできたことでした。

 成田 利上げできずにいたことが円安の放置につながったという批判があると思うんです。日米の金利差が広がった状態が続いたことで円が売られた、と。

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 黒田 要するに植田総裁が行っているのは金融引き締めではなく、異常な緩和状態からの正常化ですよね。マイナス金利だったものを1%台まで、1年から1年半かけて段階的に引き上げようというのは極めて妥当だと思います。むしろ一気に大幅利上げなんてしたら株価急落や景気悪化を招きかねない。「利上げが遅れたから円安になった」という批判は当たらないと思います。

 現在の円安には別の要因があって、ひとつには市場が「高市トレード」と呼ぶ動きがありますね。つまり高市総理が掲げる大規模な財政拡張策に対して、財政の持続可能性に対する不安が一時的に強まり、円売りが進んだというものです。

黒田氏 Ⓒ文藝春秋

 成田 ちなみに「望ましい」為替水準はあると思われますか?

 黒田 まあね。ただ為替の決定理論というのは実際、無きに等しいわけですよね。為替について、長期的に検証に耐えている理論は「購買力平価説」(20年、30年といった超長期で見れば、国ごとの物価上昇率の差が為替レートに反映されるという考え方)です。ただし、そんな長期の物価や為替は予測不可能なので、実務的な予測には使えません。

 成田 経済学ってマクロ経済政策・現象に対する予測力では驚くぐらい無力な学問であり続けています。経済政策の実践者として、経済学へのご注文はあるでしょうか。

黒田氏(左)と成田氏 ©文藝春秋

 黒田 一口にマクロ経済についての分析といっても、政策の効果を測れるものと測れないものを同じ土俵で語ることにあまり意味はないと思います。財政政策であれば、例えば政府が1億円出したときに、どれくらいの効果が出るかは、ある程度、測れるわけです。ところが、為替の介入の効果というのは全然測れない。私の経験でも、ものすごい量やっても効果がないこともあるし、ちょこっとやっただけで効果がある時もある。同じような状況で同じ規模の介入をしても、その効果は、そのときによって全然違うんです。

※本記事の全文(約7000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(黒田東彦×成田悠輔「いまは金融も財政も引き締める時です」)。

文藝春秋

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いまは金融も財政も引き締める時です

出典元

文藝春秋

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