先進国としては突出した債務を抱えながらも、積極財政で日本経済の再生を目指す高市政権。この“サナエノミクス”を、世界のマーケットは歓迎するのか。“ヘッジファンドのサムライ”の異名を取る、ヘッジファンド・マネージャーの塚口直史氏に聞いた。(インタビューは10月30日。取材・構成:杉本りうこ)
◆◆◆
世界の金融マーケットはどう見ているのか
――高市政権の発足から日本で株高が進んでいます。日経平均株価は5万円を突破する局面もありましたが、これをどう評価していますか。
年初の日経平均は3万9000円程度でしたから、ざっと30%上昇したわけです。これだけの株価上昇を合理的に説明できるような大きな変化が、日本の実体経済に果たしてあったでしょうか。ちょっと思い当たりませんよね。
世界の多極化が進み、地政学的な思惑から日本にお金が流入している側面はあります。しかしそれ以上に大きな要因は円安です。世界のマーケット参加者は「新政権下の日本ではどうやら利上げが進まないようだ」と受け止めています。利上げをやらなければ円安になります。円安になると、大手製造業が主な構成銘柄である日経平均は上がります。そういう循環が日経平均5万円を生んでいます。
――高市首相の「政府と日銀は一体であるべき」という発言が、金融正常化を図ろうとしてきた植田日銀の方針を修正すると受け止められている?
そうです。中央銀行への関与をあらわにした点ではトランプ的な発言と言えます。しかし利上げ期待が遠のく状況は、世界の債券投資家にとっては「ちょっと困ったな」という話なのです。
株は個人投資家にとっては一番なじみ深い投資対象ですが、世界全体では国債や社債のような債券マーケットの方が規模が大きい。機関投資家が投資する市場です。私も債券マーケットに参加している一人で、国内外の年金や大学のお金を運用しています。
債券に投資する人というのはある種、「謙虚な投資家」と言えます。というのも債券は株や不動産などに比べて、基本的にリターンが高くないからです。高い利潤を貪欲に求めるのではなく、控えめなリターンでも満足するのが債券投資家なのです。信頼できる国や企業の債券は、長期にわたって安定的にクーポン(定期的に支払われる利息)が得られる確度が高い。この前提があるから、相対的に低いリターンでも投資する価値があるのです。
特に国債について投資家は、発行国の政策に高い信頼とリスペクトを持った上で投資しています。適切な経済政策を実行し、クーポンを間違いなく払ってくれるだろうと信じた上で国債を買っています。
