難病の子どもたちの夢を叶える活動を行う団体「メイク・ア・ウィッシュ・ジャパン オブ ジャパン」(MAWJ)。初代事務局長を務めた大野寿子さんは約3000人もの子どもたちの夢を叶え、多くの人々に慕われてきた。しかし、2024年6月、肝内胆管がんにより「余命1カ月」を宣告されてしまう。
そんな大野さんの最期の日々に密着した感涙のノンフィクション『かなえびと 大野寿子が余命1カ月に懸けた夢』(文藝春秋)が好評発売中。
今回は、「死」への恐怖をまったく抱かない大野さんが、過去に影響を受けたという“ある男性”の死生観について語る場面を抜粋して紹介する。
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死は生と隔絶せず、つながっている
2024年7月25日、大野寿子は次男の卓に助けてもらい、車椅子で金融機関を回った。口座を整理するためだ。死ぬための準備を着実に進めている。
「本人が窓口に行けば、簡単に口座が閉じられるの。私が死んだ後に、家族に迷惑をかけたくないから全部やっておこうと思って」
寿子は死後についても淡々と話す。自分のいなくなった世界を想像することに恐怖や不安を覚えていない。
私(筆者)は会話しながら、いつも感じていた。寿子にとって死は生と隔絶せず、つながっている。死について語る様子はまるで、海外旅行にでも出かけるようである。
「この年齢になって、そう思えるようになりました。亡くなった子を数多く見てきたからね。壁の穴から向こうをのぞけば、みんなそこにいるような気がします」
「壁の穴」は英語で「ホール・イン・ザ・ウォール」である。米俳優の故ポール・ニューマンが1988年、難病の子を対象に、この名を冠した慈善活動をスタートさせた。大自然と接する機会の少ない子どもたちに、安全なキャンプ体験を提供し、友情を育んでもらうことを目的としている。
活動はその後、世界に広がり、日本でも「そらぷちキッズキャンプ」として子どもたち を笑顔にしている。寿子は設立準備段階から相談にのってきた。
「死そのものに不安はないのですか」
見舞いの客が去り、にぎやかだったベッド周辺が静かになったとき、私は何度か死生観について聞いている。寿子はぽつりぽつり、こんな風に語るのだ。
「みんなと一緒にいると元気が出るんだけど、夜になると考えるよね。体のあちこちから、『もうそろそろだよ』って信号がきているし。そのときが近づいているのかなぁってね。不安なのは痛みとあっちゃんのこと。あんな優しい人に迷惑をかけたくないです」
「死そのものに不安はないのですか」
「違う世界に入っていくのは楽しみです。そこは言葉で表せないほど素敵な世界だと思っているから。まったき完璧な世界です。苦しいとか、寂しいとか、そういう発想はない。死後の世界って、どんなところかな。見てみたいという気持ち。新しい世界を見られるのは楽しいじゃないですか」
完全に旅行気分だ。
「それでも、家族との永遠の別れは寂しいでしょう」
「息子たちはみんな立派に育っていて心配はない。柔和で、人のためを思って活動できる子たちです。自分のためだけを考える人間ではない。あと5年、10年、生きられたら、(孫の)ここちゃんの活躍が見られるかも、なんて思います。それは天国での楽しみにしましょう。心配は何もありません」
自分の命が消えてしまうのである。怖いはずである。寿子が天国について語る内容は美しいが、正直納得しづらかった。信仰の強さと言ってしまえば簡単である。ただ、生身の人間は聖書の世界を信じきれるだろうか。「奇跡」との出合いがなければ、無理ではないのか。

