アメリカは新年早々にベネズエラを急襲、その後も同盟国・デンマークにグリーンランド割譲を求めるなど、西半球の支配権強化を狙う「ドンロー主義」を一方的に推し進めている。国際秩序が大きく揺らぐ中、これから世界はどこに向かうのか。国際情勢に詳しい、4人の専門家たちが語り合った。
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MAGA派のレッドライン
峯村 米政府関係者に取材すると、最近は支持率の低下に焦っています。とくに性的人身売買問題で起訴され自殺したエプスタイン氏を巡る疑惑で、コアな支持層であるMAGA派の一部が離れつつある。トランプ氏の念頭には、それを打ち消すニュースを作ることがあったはず。「新聞一面のヘッドラインを取れる話題を作れ」というのが一期目から政権幹部たちの合言葉でした。支持率を上げるために特ダネを提供する。そのことに毎日腐心していましたから。
坂口 ただMAGA派はどちらかといえば、外交に対する関心が低い層ですよね。ベネズエラ攻撃が彼らへのアピールになるのでしょうか。
冨田 確かにそういう面はありますが、今まで政治的に無視されてきたMAGA派は、唯一気にかけてくれたトランプ氏を“アイドル”のように見ていて、外交政策であっても彼が成功すれば快哉を叫ぶのです。
今回、上陸作戦に踏み切らなかったのもMAGA派をはじめとする国内支持基盤への配慮からでしょう。米国民にはイラク戦争がトラウマなのです。あの戦争は2003年から8年続き、4000人以上の米兵が犠牲になっている。第二次政権発足後、トランプ氏はイランなど7カ国に軍事作戦を行ってきましたが、大半が「ワン・アンド・ダン」。すなわち、一度きりの局所的な攻撃でした。ベネズエラに対する地上部隊の上陸作戦は、MAGA派にとっても看過できない「レッドライン」なのです。
峯村 世論調査でも、共和党支持者の65%が今回の軍事作戦を支持する一方で、ベネズエラに深入りすることを懸念する人は54%、兵士の命が危険にさらされることを懸念する人も64%います。
山下 もしベネズエラに地上部隊を出せば、ジャングル戦を余儀なくされ、ベトナム戦争のように泥沼化する恐れもあります。社会主義体制の中で予算が削減されたことで、ベネズエラ軍は疲弊し切っていますが、米軍人に聞くと、完全制圧するためには10万~15万人の地上部隊を投入する必要があるという。あまりにも非現実的な数字で、米軍からの支持も得られないでしょう。
峯村 最も効果的なところでやめるという合理的な判断をトランプ氏は下したと言えます。作戦後、トランプ氏はエクソンモービルなどの米国企業に石油開発を指示しました。世界一の埋蔵量を誇るベネズエラ産石油への野心を隠していません。
山下 ある米国の退役軍人によれば、米国の石油はこのままのペースで行けば11年ほどで枯渇するそうです。真偽は不明ですが、米国が石油資源を求めているのは間違いないでしょうね。

